
緩効性肥料の代替技術である疎植ペースト2段施肥栽培における東北地域の水稲品種の根系構造を調査した.山形県で栽培した 「はえぬき」 と福島県で栽培した 「天のつぶ」 は,いずれもペースト深層施肥位置において根が増加し,根直径別の解析により側根が有意に増加したことが示された.水管理が根系分布に及ぼす影響を調べるために岩手県で栽培した 「あきたこまち」 では,同じペースト2段施肥栽培においても,長期落水処理をした場合に下層根が慣行の水管理と比べて増加した.以上の結果から,ペースト2段施肥栽培した水稲が無追肥でも収量性を維持する要因の一つとして,深層で長期に肥効が続くペースト施肥位置に,イネが側根を集積させることで生育後半までの養分供給を維持するためであることが示唆された.また水管理は根系分布に影響を及ぼすことから,栽培管理や品種特性に合わせた施肥割合・位置の設計などが収量性の安定に重要であることも示された.
長寿の樹木の成長と適応は,個体呼吸で得られるエネルギーで支えられている.このエネルギーは水獲得と炭素獲得を担う地下部と地上部に配分され,その配分は成長過程でサイズに応じて変化する.しかし,広い成長段階で地下部・地上部全体の呼吸を実測した研究は殆ど無い.著者らはブナ (Fagus crenata) の吸水種子~成木377個体の地上部と地下部の呼吸,重量,表面積を実測した.この結果,地下部と地上部の呼吸速度と個体生重量の関係は,両対数軸上でそれぞれ上に凸と下に凸の非線形でモデル化された.これは,個体呼吸に占める地下部の割合が成長初期に増加し,成長後期に低下するためであった.しかし,成長初期の地下部の割合は,呼吸 (最大47.8%) よりも表面積 (最大78.2%) において大きく増加した.これは,芽生え期の急速で低コストな根表面積の拡大がその後の地上部成長を加速させることを示す.成木期には地下部成長の低下・飽和に続いて地上部及び個体全体の成長が低下することが示された.さらに,これらブナの個体呼吸は,ロシア~インドネシアの51種の芽生え~大木の個体呼吸の範囲内にあり,多様な系統や環境を包括した樹木の統一的な個体呼吸スケーリングの存在が示された.本稿では,個体レベルの地下部と地上部の関係を巡る研究を紹介し,樹木成長メカニズムを理解する上での根を含む個体呼吸の重要性を解説する.
根系は養水分の吸収に影響するため,重要な育種対象である.根系を改良することで,肥料吸収効率や乾燥ストレス耐性などの重要形質を改善することができる.しかしながら,土中の根の収集および計測は労力がかかり植物体を破壊するため,根系は育種で優先されていない.本ミニレビューでは,根の収集および計測の省力化,および非破壊計測技術の開発に焦点をあてた近年の研究動向を紹介する.根の収集では,鋼鉄製モノリスとバックホーを用いてイネ (Oryza sativa) の根の収集が効率化された.世界のイネ品種を用いたモノリス調査により,イネ亜集団間で根のバイオマスと相関の高い分げつ数および冠根直径が異なっていることを定量的に評価した.根の計測では,深層学習の画像解析によりイネの根の計測が効率化された.塹壕法は作物横に溝を掘り作物根の土壌内分布を観察する手法である.塹壕法写真を深層学習により画像解析することで,世界のイネ品種の根の土壌内分布の多様性を定量的に評価した.非破壊計測技術の開発では,エックス線CT (コンピュータ断層撮影) の画像を解析するための画像解析ソフトウェアが開発・利用された.最適な栽培条件と撮影条件を決定し,CT画像から根系の形を可視化・定量化した.以上のように,屋内外における根系解析のための労力のかかる作業が効率化された.これらの技術を用いて,根系に関する育種がより促進すると期待する.
非生物的環境ストレスに適応した作物の育種において,根の改良が重要視されている.そのため,環境ストレス耐性を持つ根の遺伝資源提案が求められる.イネの野生種であるOryza glumaepatulaはアマゾン川の水分変動が激しい過酷な環境に自生する.我々はこのO. glumaepatulaは栽培種には見られないような特徴を持つと考え,種子根における7つの形質 (側根の数,根毛長,皮層と中心柱および通気組織と皮層の面積比,外皮のカスパリー線およびスベリンラメラの形成,厚壁組織のリグニンの蓄積) について,栽培イネ台中65号 (T65) と比較しながら調査を実施した.O. glumaepatula IRGC105668系統はT65と比較して,側根数は同等であったものの,根毛はより長いものとなっていた.IRGC105668の皮層と中心柱および通気組織と皮層の面積比はT65よりも小さいものとなった.T65は外皮のスベリンラメラおよびカスパリー線をほとんど形成しないのに対し,IRGC105668はそれらを多数形成した.IRGC105668の厚壁組織のリグニンの蓄積量はT65と同等であった.以上の調査より,IRGC105668の7つの形質のうち5つの形質 (根毛長,皮層と中心柱および通気組織と皮層の面積比,外皮のカスパリー線およびスベリンラメラの形成) は,T65と比較して量的な違いを持つことを見出した.特に,このうち3つの形質 (根毛長および外皮のカスパリー線とスベリンラメラの形成) はT65と比較してより顕著な違いがみられたことから,今後育種への利用が期待できる.
: We investigated the effects of plowing on growth and grain yield of maize ( Zea mays L.) in an upland field converted from an andosol paddy field. A 2-year (2014 and 2015) field study with two hybrids and two tillage systems (rotary tilling and plowing) was conducted. Plowing reduced the time to silking by 1 or 2 days, whereas plant height, leaf color, and leaf area index were not significantly affected by the tillage system. Similarly, the tillage system did not significantly affect root length density; however, plowing of the fields increased root length density from the tassel formation stage to the milky stage. Additionally, plowing tended to increase dry weight at the milky and dough stages in 2014. In 2014, grain yield of the plants grown in plowed fields was higher than that of the plants grown in fields prepared by rotary tilling, while in 2015, there was no significant difference in grain yield between the two tillage systems. Since neither growth depression nor yield decline was observed in maize cultivated in plowed fields, it can be concluded that plowing is useful for maize production in upland field converted from andosol paddy fields.
樹木細根 (直径2 mm以下の末端根) の吸水機能を評価することは,樹木の生理活動の正確な理解につながるとともに,土壌-樹木間の相互作用系の理解を深化させることから,森林生態系における水循環の正確な理解においても重要である.本稿では,野外条件下で樹木細根の水透過性 (root hydraulic conductivity) を計測する手法について紹介する.水透過性は,組織における水の流れやすさを示し,根系全体の吸水速度や葉の蒸散速度に影響を与えることが知られている.作物や樹木の実生の根系を対象とした研究では広く用いられてきた一方で,これまで技術的な問題から,野外森林の成木における細根の水透過性の評価は私たちが知る限り未だ多くない.紹介する手法では,持ち運び可能なプレッシャーチャンバーを用いて,根の末端に人工的に一定の圧力を加え,一定時間ごとに根の切断面から出液した水の量を評価することで,水の流れやすさを示す指標である水透過性を計測する.この手法では,根系の切断面から出液した水の量を短時間で評価するため,蒸発や土壌粒子などの不純物の影響を受けにくく,野外においても計測を行うことが可能となる.本稿をきっかけに多くの方が樹木細根の水透過性に興味を持ち,計測に取り組んでいただけると幸いである.
干しいも加工用サツマイモ栽培時のマルチ畦被覆が,土壌水分やサツマイモ塊根の諸特性並びに加工特性に与える影響を,マルチ畦被覆区,収穫1か月前除去区,同2か月前除去区および無マルチ区の4種類の処理区を設け,晩植栽培により5か年にわたり調査した.サツマイモ栽培時にポリエチレンマルチにより畦を被覆することにより,降雨や乾燥に伴う畦内土壌水分量の変動が抑制されていることが確認された.晩植栽培において,マルチ畦被覆によって塊根の収量は増加することが明らかとなった.「タマユタカ」 の無マルチ区は他の試験区よりも裂開発生率が有意に高く,生育初期のマルチ畦被覆によって裂開発生率は低くなると考えられた.また,「タマユタカ」 では土壌水分の多い年次に裂開の増加が認められたが,この傾向は 「ほしこがね」 では認められなかった.干しいもの肉質は無マルチ区で最も粘質の傾向であり,収穫の約2か月前にマルチ被覆を除去すると干しいもの肉質がやや粘質化する可能性が示唆された.しかし,収穫の約1か月前に除去した場合は,干しいもの肉質に与える影響は小さいと考えられた.
細根の生産-枯死-分解プロセスは森林生態系の炭素や養分循環において重要であるが,十分に理解されていない.これは,細根が地下にあって目にすることができないために,細根量としては評価できても,同時に起こっている細根の生産と枯死・分解の時間変化 (細根動態) に関する評価が極めて限られているためである.細根量 (バイオマスまたは密度) に対する細根生産量や細根枯死 (分解) 量の比率として表現される細根回転速度 (ターンオーバー速度) の大きさの違いは,森林生態系の細根生産量や枯死量の大きさの違いとして現れる.そのため,細根動態を正確に評価することが求められる.本稿では,著者らが北海道北部の林床にクマイザサ (Sasa senanensis) が密生する冷温帯林において行った,コア法を用いた細根バイオマスと,非破壊的手法であるミニライゾトロン法を用いた細根密度と細根生産・枯死の時間変化に関する事例研究を紹介する.その中で,上層木および林床に密生しているクマイザサの地上部フェノロジーと細根生産および枯死の時間変化の関係を考察した.また,森林の生産性における細根の寄与を知るために,細根生産量と地上部純一次生産量を比較した.そして,冷温帯林の生産性における細根生産の重要性を示した.
近年,マイクロプラスチックによる海洋汚染が問題となっている.人工光型植物工場においても作物を栽培する際,プラスチック発泡体の一種であるポリウレタンフォームなどが培地 (ポリウレタンフォーム培地) として用いられていることから,可能な限り海洋生態系への悪影響が少ない資材を原料とした培地候補の選定が必要と考えられた.そこで我々は,間伐材を主な原料とするパルプ培地に着目し,機能性成分を含有するダッタンソバスプラウトの根の発達および地上部の生育にあたえる影響を調査することで,人工光型植物工場でのスプラウト生産にパルプ培地が利用可能か検討した.その結果,ダッタンソバスプラウトをパルプ培地上で栽培するとポリウレタンフォーム培地と比較して,総根長,最長根長,根長密度,比根長,出液速度,地上部新鮮重量,根の新鮮重量および根の乾物重量が有意に増加することが判明した.また,パルプ培地の含水量や三相分布を調査した結果,含水量はポリウレタンフォーム培地よりも3.89倍高く,三相分布 (気相,液相,固相) の割合がポリウレタンフォーム培地よりも作物栽培に適していた.以上から,パルプ培地は人工光型植物工場におけるダッタンソバスプラウトの栽培において適した培地であり,ポリウレタンフォーム培地に替わりえる培地候補であると考えられた.
多雨環境下にある日本の土壌は酸性化しやすく,果樹栽培や畑作では石灰等によるpH調整が行われることが多い.樹木根の中でも養分吸収に関与する細根と,細根に共生する菌根菌は主に土壌表層に分布しており,石灰施肥によるpHの変化の影響を受けやすいと考えられる.しかし,石灰施肥が細根特性と菌根形成に及ぼす影響を調査した研究例は少ない.そこで本研究では,主要な果樹であるクリを対象に,石灰施肥によって細根の量と形態,菌根形成率がどのように変化するのか調べた.調査地は山梨県北杜市のクリ園とした.クリ成木の周囲に石灰施肥区 (40 kg CaO ha–1) と無施肥の対照区を設け,イングロースコア (プラスチック製メッシュ円筒) を埋設した.施肥と円筒の設置は2016年5月または7月に行った.同年10月に円筒内部に進展した根系を回収し,細根成長速度と細根の形態および菌根形成率を調べた.その結果,5月処理区では施肥区の方が対照区よりも細根成長速度が高かったのに対し,7月処理区では両者間に違いは見られなかった.根の形態の指標である微細根長比 (Very fine root ratio,VFRR) は,施肥区と対照区間で有意な差は見られなかったが,5月処理区の方が7月処理区よりも高かった.菌根形成率はいずれの区においても約4-6割で,有意な差は見られなかった.以上から,このクリ園では春に石灰施肥を行うことで,菌根の形成率を低下させることなく,細根成長を促進させることができると考えられた.