
高橋(1960)の見通し角は,「雪崩到達点から発生点を見通す仰角が表層雪崩は18°,全層雪崩は24°未満の範囲には雪崩が到達しない」という簡単な概念のため,これまで雪崩対策の実用上,多くの場面で利用されてきた.高橋(1960)は雪崩の到達限界の目安を示しただけで,どのような雪崩に適用できるかまでは示していないにもかかわらず,現状では斜面規模に関係なく,この経験則を適用して雪崩到達範囲を決めることが多い.しかし,高橋(1960)以降の研究事例では,表層雪崩で18°未満,全層雪崩で24°未満の見通し角がしばしば計測されていることから,高橋(1960)の見通し角については詳しく再検討する必要がある.本稿では,高橋(1960)の見通し角がこの60年余りの間に雪崩対策の実務に応用されるに至った経緯や,見通し角がどのように説明されてきたかを再確認した.次に,見通し角は雪崩量に依存することを物理モデルによって示した.また,見通し角を予測する既存の研究例を紹介し,現段階において実用的と考えられる,見通し角の確率分布から雪崩到達危険度を推定する手法を提案した.
石川県と岐阜県の県境にまたがる白山にある,多年性の千蛇ヶ池雪渓を対象として,雪渓の雪面低下量計測と気象観測を3夏期間にわたって行った.夏期における雪面熱収支特性を明らかにするとともに,雪渓の融雪過程と気象との関係について分析し,気象条件や熱収支特性が雪渓の雪面低下量の年変化にどの様な影響を与えているのかを検討した.その結果,3夏期間における雪渓表面の熱収支項の平均値は,純放射量447 W m-2(短波放射量309 W m-2,長波放射量138 W m-2),顕熱輸送量140 W m-2,潜熱輸送量180 W m-2,降雨熱輸送量39 W m-2であった.また,降雨時と無降雨時にわけて融雪熱量を求めたところ,降雨時が349~560 W m-2,無降雨時が157~246 W m-2となっており,降雨時の方が大きいことが示された.さらに,年ごとの雪面低下量への寄与が高いのは正味短波放射量であるが,日積算雨量50 mm以上,日平均風速7 m s-1程度以上の悪天候イベントの発生頻度次第で潜熱輸送量は大きく変動し,年ごとの雪面低下量に違いが生じうることがわかった.
冬期の平均的な積雪深を表す指標として年平均積雪深を新たに導入し,従来から用いられている年最大積雪深による結果と比較した.その結果,北海道,東北,北陸で気象庁が観測する 48 地点での過去60年間の年平均積雪深のトレンドは北海道日本海側3地点,北海道オホーツク海側1地点,北陸6地点で減少を示し,北海道太平洋側4地点,東北太平洋側1地点で増加を示した.年平均積雪深を用いることで従来の年最大積雪深では検知されなかったトレンドを新たに6地点で検出することができた.年最大積雪深のトレンドは年平均積雪深の1.6~3.4倍となり,年最大積雪深を用いて平均的な積雪深を評価すると変動傾向は過大評価となることがわかった.一方,48地点を冬期気象に基づき6つの地域に分類し,地域ごとの年平均積雪深と年最大積雪深の経年変化を調べた.その結果,年平均積雪深では北海道太平洋側は増加,北陸は減少のトレンドが検出できた.年最大積雪深では北海道日本海側と北陸で減少のトレンドを検出できた.48地点の積雪深と気象指標(冬期平均気温,北極振動)との関係,積雪期間,積雪初日,積雪終日の変動,顕著な積雪深減少が続いている北陸での減少理由を議論した.
道路インフラの上部構造等に付着した氷雪や氷柱(つらら)が道路に落下すると,通行車両等に被害を及ぼす可能性がある.それを防ぐ対策に雪や氷が付着しにくい塗布材料が利用されることがある.しかし,長くても数年に1回の塗り替えが必要になるなど,耐久性の面で課題が残されている.本研究では,耐久性を有する対策として超撥水性PDMS(poly-dimethylsiloxane)を利用した防氷技術,中でも氷柱の形成を抑制する技術の開発を目的とした.フェムト秒パルスレーザーをステンレスに照射し掃引するとステンレス表面に多重微細凹凸構造が形成される.これを鋳型とし熱架橋によりPDMSに多重微細凹凸構造を転写すると,水の接触角162.4±2.9°,転落角3.0±0.8°の超撥水性が付与された.融雪水の再凍結による道路インフラへの氷柱の形成を想定し,0.8±0.6 ℃の水滴を−11.9±2 ℃の低温環境で超撥水性PDMS表面に連続的に滴下し,強制的に氷柱を形成させる室内実験を実施した.その結果,水滴は超撥水性PDMSを即座に転がり落ちるため,氷や氷柱の形成を抑制する可能性が示された.ただし,超撥水性PDMS表面にも水滴が凍結する現象が確認されたことから,多重微細凹凸構造を有する超撥水表面は一定の氷柱形成の抑制効果はあるものの,完全な防氷効果を有するわけではないことも明らかになった.
強風を伴った湿雪の樹木への着雪により,樹木に作用する荷重が増加することで,幹折れや根返りなどの樹木の破壊が生じる.このような樹木の破壊を予測するためには,着雪と風により樹木に生じる荷重を考慮した構造解析が用いられる.しかし,樹木に生じる風荷重の測定例は少なく,風荷重の推定に必要な樹木の抗力係数への着雪の影響は不明である.本研究では,国内の主要な林業種であるスギにおける,抗力係数に及ぼす着雪の影響を明らかにするために,風洞実験を実施した.風洞装置内に実物のスギの枝葉を材料に用いたスギの枝葉のモデルを設置し,送風しながら湿雪を供給することにより人為的に着雪を生じさせた.そして,風速や着雪量などの実験条件に対する,スギ枝葉の抗力係数の変化を測定した.その結果,枝葉への着雪は,(1)着雪の発達により風向に対する垂直面への投影面積である垂直投影面積を増加させる効果,(2)流体抵抗を減じる効果,(3)風の作用により枝葉が湾曲することで生じる垂直投影面積の減少を阻害する効果をもたらすことが示唆された.これらの効果により,着雪前の無風時の受風面積を用いて求めたスギ枝葉の抗力係数は,着雪量により変化した.