
【背景】血友病患者の治療は進歩した。そこで治療の進歩による患者の学校・社会生活の詳細を明らかにするために,母親を対象に,若年世代の患者の学校・社会生活,母親の困り事について実態調査した。 【方法】血友病患者の母親を対象に,無記名自記式の質問紙調査を実施した。 【結果】母親27人の回答が得られ,息子である患者は30人だった。定期輸注実施は23人で,そのうち家庭で輸注を行う者は22人だった。通園経験のある者は27人だった。全ての行事に参加させた者が18人だった。宿泊行事中の定期輸注の実施について,中学生までは学校に支援依頼していた。患者8人は自己注射し,高校生以降の患者4人は,自室で一人の時に注射をしたという回答だった。母親の困り事は「血管確保の失敗と焦り」だった。 【結論】治療の進歩は患者の学校・社会生活を改善した。しかし継続的治療を支える家族の負担のもとに成立する。今後必要な医療支援として,患者の宿泊行事中の輸注において,患者が安心して注射できる場所についての助言が示された。
症例は50歳の女性。食後の呼吸困難感のため近医より紹介受診となった。上部消化管造影検査では胃全体が縦隔内に脱出していた。またCT検査では横行結腸の縦隔内への脱出も認めた。以上より,横行結腸嵌入を伴う upside down stomach を呈する食道裂孔ヘルニアと診断し腹腔鏡下手術を行った。食道裂孔より縦隔内の胃や横行結腸を腹腔内に還納したが虚血を疑う所見や狭窄所見は認めなかった。開大した食道裂孔を縫合閉鎖した後にメッシュを用いた食道裂孔の補強と floppy Nissen 法による噴門形成術を施行し,術後経過は良好であった。食道裂孔ヘルニアへの横行結腸嵌入はまれな病態であるが,狭窄・壊死・穿孔のため緊急手術の報告もあり早期に手術治療を行う必要があると考えられた。
酸による急性肺障害の病態生理に対する血小板活性化因子(PAF)の関係およびその作用機序として迷走神経反射を介する機序の解明を目的とした。雑種成犬に塩酸と精製PAFの気道内注入をそれぞれ行って気道内圧,肺および心循環動態,血液ガス,末梢血中の白血球および血小板数,肺血管外水分量,病理組織像などの変化を検討した。さらにこれらの変化に対して,PAF受容体拮抗阻害剤であるCV-3988と副交感神経遮断剤であるアトロピンの影響を比較検討した、その成績は要約すると以下の如くである。 I.酸による急性肺障害に対するPAFの関与 1)CV-3988は塩酸および精製PAFのそれぞれの注入により生じる早期の著明な最大気道内圧(AWPpeak)の上昇を有意に抑制した。 2)CV-3988は塩酸による動脈血O2分圧(Pao2)の低下を有意に抑制し,精製PAFによる低下を抑制する傾向を示した。 3)CV-3988は塩酸による早期の心拍出量の低下を抑制する傾向を示し,精製PAFによる著明な低下を有意に抑制した。 4)CV-3988は塩酸および精製PAFのそれぞれの注入による末梢血中の白血球および血小板数の減少を同様に抑制する傾向を示した。 5)塩酸の注入による肺血管外水分量の増加はCV-3988で抑制される傾向を示したが,精製PAFによる増加においては明らかな傾向を認めなかった。また病理組織像において,同様に著明な出血性肺水腫と好中球の間質および肺胞腔への浸潤を認めたが,CV-3988では抑制されなかった。 これらのことにより,酸による急性肺障害においてはPAFが産生され,その生理活性を介して気道攣縮とそれに伴う低酸素血症,および心機能低下の発生に関与していることが示唆された。 II.酸による急性肺障害に対するPAFの作用機序-特に迷走神経反射を介する機序について 1)アトロピンは精製PAFと塩酸のそれぞれの注入による早期のAWPpeakの上昇およびPao2の低下をほぼ完全に抑制した。 2)アトロピンは精製PAFによる心拍数の減少をほぼ完全に抑制し,塩酸による減少傾向を抑制する傾向を示した。 これらのことより,PAFは迷走神経反射を介して気道攣縮を惹起し,さらに酸による急性肺障害の気道攣縮においてもPAFの同様な作用が示唆された。 以上の検討により,酸による急性肺障害においてPAFが産生され,その生理活性を介して早期の気道攣縮,低酸素血症および心機能低下へ関与することが示唆された。特に気道攣縮に対してはPAFが迷走神経反射弓へ作用し,酸による直接的な反射性攣縮を増強する機序が結論づけられた。今後,PAF受容体拮抗阻害剤はこの方面で臨床応用されるべき必要性のあることが考えられた。
B型肝炎ウイルス(HBV)に対する薬剤の抗ウイルス作用についての解析は, HBVと同じくヘパドナウイルス科に属するアヒルB型肝炎ウイルス(DHBV)とその宿主であるアヒルを用いた感染実験系を主に使用して行われている。アヒル初代培養肝細胞におけるDHBV感染実験系は,ウイルスのライフサイクルであるウイルスの肝細胞への吸着侵入,肝細胞内でのウイルス合成,および培養液中へのウィルス放出が解析できるので,有用な実験系である。筆者は,DHBV-DNA probeを作製し,アヒル初代培養肝細胞におけるDHBVの感染実験を行い,グリチルリチン(GL)の抗ウイルス作用を検討した。 GLは1.0mg/mlの濃度では肝細胞毒性を認めなかった。同濃度のGLを用いた実験にて,GLはDHBV接種開始時から添加するとウイルス増殖を抑制したが,接種終了時よりの添加ではウイルス増殖を抑制しなかった。またGLは肝細胞内の一定量DHBVあたりの放出DHBV量を抑制した。しかしGLにはDHBV粒子の不活性化作用はなかった。これらの結果より,GLは肝細胞毒性のない1.0mg/mlの濃度でDHBVに対して抗ウイルス作用を示し,このGLの抗ウイルス作用の機序としては,DHBVの肝細胞への吸着侵入と肝細胞からのウイルス放出の抑制が考えられ,肝細胞内でのDHBV増殖に対する抑制作用やDHBV粒子に対する直接的な不活性化作用によるものではないと考えられた。また,GLの50% inhibitory doseは0.46mg/mlであった。 一方,GLは0.25mg/mlの低濃度ではDHBVに対する抗ウイルス作用はほとんど認められなかった。このことは,臨床でHBV感染症に投与されているGL量ではHBVに対するGLの抗ウイルス作用は軽微であることを示唆しており,GLのトランスアミナーゼ改善の機序として,この抗ウイルス作用は優位には働いていないと推測された。
ヒト好中球スーパーオキシドアニオン(O2-)産生に及ぼすInterleukin-8(IL-8)の影響を検討した。IL-8には主に,72個のアミノ酸よりなる[IL-8]72および77個のアミノ酸よりなる[IL-8]77があり,両者の比較検討も行った。 [IL-8]72,[IL-8]77共に1×10-8M以上の濃度で好中球O2-産生を直接誘導した。しかしその活性は他の好中球走化因子であるN-formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine(FMLP)やC5aと比較して弱く,チトクロムC還元能測定法では検出困難であり,高感度なO2-測定法である2-methyl-6-phenyl-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-3-one(CLA)依存性化学発光法で測定可能であった。[IL-8]72あるいは[IL-8]77による化学発光パターン(O2-産生パターンはFMLP,C5aによるそれに類似していたか,両IL-8のO2-産生量は細胞外Ca2+,Mg2+の有無に関係せず,FMLP,C5aとは異なっていた。両IL-8とも細胞内遊離Ca2+([Ca2+]i)を上昇させる作用を認めたが,その上昇はFMLPの場合に比べ少量,短時間であった。 O2-産生誘導及び[Ca2+]iの上昇作用では[IL-8]77に比し[IL-8]72のほうが活性が強かった。[IL-8]72で充分刺激した後[IL-8]77で刺激をしても新たな反応は見られなかった。しかし,[IL-8]77で充分刺激した後[IL-8]72で刺激すると少量であるが新たな反応が見られた。これは両タイプIL-8の,好中球表面レセプター(IL-8R)に対する親和性の差を示唆していると思われる。 好中球を1×10-10M以上の濃度のIL-8で37℃,10分間preincubationすると,その後のFMLPあるいはC5a刺激によるO2-産生量は増大された。両IL-8にはFMLPやC5a刺激による好中球酸素代謝に対しプライミング効果を持ち合わせていると思われた。この作用はこれまでの直接刺激作用と異なり,[IL-8]72,[IL-8]77共にほぼ同程度であった。 以上より,[IL-8]72及び[IL-8]77は好中球に対し共にO2-産生誘導及び[Ca2+]i上昇といった直接作用を呈しうるが,その生物学的活性はin vitroでは[IL-8]72がより強力であった。 また,FMLP,C5a刺激による好中球酸素代謝に対するプライミング作用も認められ,その作用は[IL-8]72,[IL-8]77共に同程度の活性を示すことが確認された。 両IL-8は実際の炎症の場において,他の好中球走化因子と作用しあって,好中球機能を調節している可能性があると推測された。