
本総説で取り上げる繊毛虫コルポーダ・ククルス(Colpoda cucullus)は,劣悪な環境ストレスに対する適応戦略として休眠シストを形成する。その過程では,細胞は自らの細胞構造を解体して休眠型に再構築することで,強い環境ストレス耐性を獲得する。近年我々は,コルポーダ・ククルスの休眠シストが強いガンマ線耐性をもち,休眠シストにおいて細胞の傷害が積極的に修復されていることを明らかにした。本総説では,コルポーダ・ククルスの休眠シストについて,特にそのガンマ線耐性と傷害後の細胞修復を中心に紹介する。
私たちヒトが日常で地球の磁気(地磁気)を感知することはないが,鳥類や爬虫類,両生類,魚類,昆虫,果ては細菌に至るまで,様々な生物種において地磁気受容能が示されている。動物では特に,渡りや回遊,帰巣のためのナビゲーションに地磁気を利用していると考えられている。生物の磁気応答の仕組みには,「マグネタイトメカニズム」と「ラジカルペアメカニズム」という,2種類のメカニズムが考えられている。マグネタイトメカニズムは,微小な磁性粒子を利用する機械的な方法であり,一方,ラジカルペアメカニズムは,光エネルギーを利用する化学的な方法である。これらのメカニズムの詳細は不明な点が多いものの,それぞれ細菌および鳥類において研究が進んでいる。本稿では,磁気受容能をもつ生物,ならびに上記の2つの磁気受容メカニズムの特性の違いを紹介し,筆者らがこれまで研究対象としてきたラジカルペアメカニズムについて,自身の研究と近年の研究動向を踏まえて紹介する。
ウニは古くから実験生物学の材料として重宝されてきた。特に,発生生物学や細胞生物学の分野においてはウニから発見された現象や分子メカニズムが生命科学の進歩に寄与した例は多い。しかしながら,こと神経科学の面においてはウニを材料とする研究者人口は非常に少なく,長らく分子的な情報もほとんど存在しない状況であった。そのため,個々の研究室から細々と形態的な報告がなされるだけで,神経研究はウニの研究業界の中でも主流とされる分野とは一線を画すものであった。一方,90年代後半から2000年代前半の10年間にかけて分子的なツールが整備されたことや,アメリカムラサキウニのゲノムプロジェクトに伴いウニの研究業界の中でも神経に着目した仕事が徐々に増加し,近年にかけてEvoDevoの観点からも注目領域のひとつとして発展しつつある。そこで本総説では,ウニ幼生の神経系に着目し,その形成過程と機能に関してこれまで発表された論文を紹介する。まず,本雑誌であまり馴染みのないウニに関してその進化系統,発生,研究の歴史を簡単に紹介し,次にウニの神経系の分類とそれぞれの発生に関してまとめる。さらに,機能に関しても我々が発見した情報を総じて紹介し,最後にウニ幼生の神経研究から得られる情報を進化学的観点からどう発展させられるのかを論じる。
5億年以上前に,脊椎動物の共通祖先は4種類の錐体タイプによる4色型の昼間視と,桿体による薄明視を獲得した。これら視細胞にはそれぞれ独自の光シグナル伝達系が備わり,特徴的な細胞形態を示す。これらの特徴は生物種を超えて高度に保存されており,進化距離の離れた生物においても視細胞を同定することが可能である。その一方で,個々の生物種における視細胞の応答は,生息する光環境に応じて独自に調整されており,視細胞の種類数も劇的に変化している。本総説では,3種の脊椎動物(ゼブラフィッシュとハツカネズミとヒト)において,転写調節因子による視細胞の分化メカニズムを比較し,視細胞の種類が種間で相同であるかどうかを探究する。さらに,魚と哺乳類の共通祖先が保持していたであろう4つの錐体タイプの細胞分化ネットワークが,現生の哺乳類が備える2つの錐体タイプのネットワークへと進化的に移行した経緯を考察する。
Cryptobiosis is a life stage in which metabolic activities virtually cease and there are no viable life signs.Resting cyst formation (encystment) is a representative example of cryptobiosis that enables extreme tolerance to environmental stresses in unicellular organisms such as colpodid ciliates.The phylum Ciliophora is monophyletic and includes species that can survive environments such as desiccated soil due to the ability to form resting cysts.Resting cysts differ markedly from vegetative cells, both morphologically and physiologically.For example, during
視覚的な局所運動は狭い受容野内における輝度などの時空間的な相関から検出されるが,検出される運動成分は2次元的な運動方向と速度を一意に定めることができないという問題が生じる。霊長類は局所運動成分を統合することによりこの問題を解決しているが,他の系統における運動統合過程を調べた研究は少なく,種比較による系統発生的,生態的考察もなされていない。本稿ではハト(Columba livia)の運動統合特性が霊長類と異なることを行動実験から示した著者らの研究を紹介する。他の脊椎動物種における運動統合を調べた研究についても概説し,運動統合の種差を生じさせる要因について考察する。運動統合の種差は獲物などの運動物体を追跡する機能と関連しており,初期視覚領域における傾き選択性の有無と網膜からの2つの視覚経路の発達度合いの差異から生じるという仮説を提案する。
受け取った感覚刺激が自分由来なのか外界由来なのかを区別することは,すべての動物にとって不可欠である。随伴発射は内的な運動予測信号であり,感覚情報処理を調節することで,その区別に重要な役割をもつ。電気パルスを発してコミュニケーションや電気定位を行うモルミルス科弱電気魚を用いた研究は,とりわけ随伴発射の神経メカニズムの理解に重要な貢献をしてきた。本稿では,随伴発射の概念の発見から,電気コミュニケーション,受動的電気定位,能動的電気定位における異なる随伴発射の役割とメカニズム,さらに随伴発射の進化について,比較的最近の知見を含めて解説する。
温帯地域では季節の移り変わりによって外部環境が劇的に変化する。このような四季が存在する地域の生物の多くは1日の日長変化から季節を読み取り,生理状態や行動を適切に調節している。体内で約24時間周期のリズムを刻む体内時計である概日時計が,この日長測定に重要な役割を果たしていると考えられている。一方で,情報処理の中枢である脳神経回路内で,概日時計に基づいた日長情報がどのような神経シグナルを介して伝達され,細胞レベルでどのような日長応答を起こしているのかは長年不明であった。著者らの研究グループは,明瞭な日長応答を示すカメムシなどの野外採集昆虫を用いて,細胞レベルでの生理学的解析とRNA干渉法による遺伝子発現操作解析を組み合わせることで,この概日時計に基づいた日長情報の神経処理機構の解明に取り組んできた。本稿ではまず,概日時計に基づいた日長測定機構のこれまでの研究の歴史について紹介する。続いて,近年著者らが生殖機能に明瞭な日長応答を示すホソヘリカメムシを用いて明らかにした,日長情報を伝達する神経シグナルとそれを受け取った生殖制御細胞での日長応答について紹介したい。