
25 歳,女性。初診 7 日前に嘔吐症のため左手背部に点滴をした。初診 6 日前に飼い犬に左手関節部を噛まれ受傷した。初診 2 日前より左手背部と左手関節部に疼痛と握雪感が出現し,徐々に左上肢に拡大したため当科を受診した。左手関節部に軽度の発赤と腫脹がみられ,同部に刺青を認めた。血液検査で炎症反応の上昇は軽度であり,CT 検査で左上肢の筋肉浅層および筋間にガス像を認めた。ガス像は前胸部,頚部,縦隔内の広範囲に進展していた。初診時,ガス壊疽を疑い抗生剤点滴投与と高気圧酸素療法で治療を開始した。経過中,全身状態は比較的良好で,各種培養検査は全て陰性だったため,非感染性の外傷後皮下気腫と診断した。外傷後皮下気腫の原因は,感染性と非感染性に大別できる。自験例では,非感染性が疑われ外的誘因として点滴と犬咬傷と刺青の 3 つを考えた。主に,点滴または犬咬傷により創内に流入した空気が筋肉の収縮によって広範囲に散布されガスが生じた可能性を考えた。臨床所見や検査所見に乏しい症例は,非感染性の外傷後皮下気腫を考慮することが重要である。
2018 年 8 月から 2021 年 5 月までの期間に,周術期に使用した薬剤によるアナフィラキシーショックの疑いで当科で精査を行った症例は 4 例だった。症例は男女 2 名ずつで,年齢は 29~74 歳(平均 56.3 歳)だった。全症例で皮膚テストを行い,原因の特定に至った。その内訳は,第一世代セフェム系抗菌薬であるセファゾリンが 2 例,筋弛緩薬であるロクロニウムが 1 例,局所麻酔薬関連が 1 例だった。自験例を通じ,原因特定には皮膚テストが非常に有用であり,特に術前の症例で使用可能な薬剤を検索することは医師・患者双方にとって極めて重要かつ有益であることが改めて示唆された。中でも,筋弛緩薬は相互の交差反応性が高く,1 つの筋弛緩薬で皮膚テスト陽性となった場合,その他の筋弛緩薬も使用不可になる可能性がある。そのため,他の筋弛緩薬を使用する前に皮膚テストを検討する必要があり,自験例でロクロニウムが陽性だった患者に対しても今後実施する予定である。
乳児血管腫(いちご状血管腫)は新生児期に発生する血管内皮細胞由来の良性腫瘍である。出生直後から数週間までに発症し急速に増大していくが,自然退縮傾向があり徐々に退縮していくことが多い。高度な症状を示す一部の症例以外は治療をせずに経過観察することが多かったが,20 年程前からレーザー治療が行われるようになってきた。しかしレーザー治療では隆起型や皮下型の血管腫には十分な効果が得られず,最近ではプロプラノロール塩酸塩シロップ(ヘマンジオルシロップ®)内服が主流で行われている。本症例は右上腕に重度の隆起型乳児血管腫を認めており,胎生25 週0 日,755 g での低出生体重児であり修正週数6 週になるまで内服を開始せず経過をみようとしていたが,修正週数5 週で腫瘍が自壊したため,即日内服を開始した。内服開始後特に副作用なく腫瘍は順調に縮小し,内服終了後も再燃を認めていない。低出生体重児の隆起型乳児血管腫に対するプロプラノロール塩酸塩シロップ内服の適応について考察する。
14 歳,男児。初診 2 週間前よりてんかんに対してカルバマゼピン(テグレトール®)が開始された。初診時,結膜充血,顔面の紅色丘疹,口腔内びらん,体幹に紅色丘疹を認め,重症薬疹が疑われ緊急入院となった。入院翌日から紅色丘疹は融合し,眼瞼結膜の充血の悪化,口唇,口腔内に粘膜びらんがみられるようになった。びらんは体表面積の 10%未満で Stevens-Johnson 症候群 (SJS) と診断した。しかし徐々に表皮剝離は進行し,入院 3 日目より表皮剝離は全体の 10%以上となった。先行する感染症はなく,カルバマゼピンが被疑薬と考えられ,本邦基準で中毒表皮壊死症 (TEN) と診断した (国際基準 : SJS/TEN overlap)。治療はプレドニゾロン 40 mg/day の内服から開始し,ステロイドパルス療法,免疫グロブリン大量静注療法を施行したところ,入院 12 日目より良好な経過を得た。本症例はカルバマゼピンで重症薬疹を起こしやすいとされている遺伝子型 : HLA-A*3101 および HLA-B*1502 の保有はなかった。小児の SJS/TEN は成人に比べ,感染症とくにマイコプラズマ感染症が原因と考えられる症例が多いとされるが,成人同様に抗けいれん薬を使用する際は注意が必要と考えた。
敗血症ショックに伴って生じた急性感染性電撃性紫斑の 2 例を経験した。2 例とも播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,以下 DIC)を伴っており,死亡した。感染源は,1 例目が Citrobacter freundii による気腫性膀胱炎で,2 例目が Klebsiella pneumonia による腸炎,bacterial translocation であった。治療は抗菌薬,昇圧薬投与を中心に行った。2001 年から 2020 年までに本邦で報告された電撃性紫斑と自験例 2 例を含めた 46 例を検討し,リコンビナントトロンボモジュリンや新鮮凍結血漿,アンチトロンビンⅢなどの DIC の治療の有無が急性感染性電撃性紫斑の死亡率と関与している可能性があると考えた。
Prof. Hywel Williams (MSc, PhD, DSc, FRCP, FMedSci) is Professor and Co-Director of the Centre of Evidence-Based Dermatology at the University of Nottingham. He trained in dermatology at King's College Hospital with Dr. Anthony du Vivier. He then went to St. Johns Dermatology Centre, London where he studied epidemiology and clinical trials with Professor Rod Hay. Hywel joined the University of Nottingham in 1994 as an Associate Professor and became full Professor and chair in 1998. There, he founded the Cochrane Skin Group and the UK Dermatology Clinical Trials Network that now form part of the Centre of Evidence-Based Dermatology. Hywel also serves as a consultant paediatric dermatologist at Nottingham University Hospitals NHS Trust, specialising in childhood eczema. Outside of dermatology, Hywel has worked on funding committees for the National Institute for Health Research (NIHR) for 15 years, culminating in him directing the largest Government funded clinical trials programme for medicine and surgery in the UK (NIHR HTA) . He now also advised the UK Government on COVID-19 research oversight.
50 歳,女性。初診の 1 カ月前に外痔核を発症し,近医外科にて複数の外用薬,内服薬による治療を開始した。その後肛門周囲に瘙痒を伴う発赤が出現し拡大し,さらに全身に皮疹が出現した。当科を受診し,痔疾患用外用剤による接触皮膚炎症候群を疑い,プレドニゾロン 25 mg/ 日,ビラスチン,フェキソフェナジン内服,ステロイド外用(肛門周囲:ベタメタゾン吉相酸エステル軟膏,四肢体幹:ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏)を行い皮疹は軽快した。使用していた痔疾患用外用剤においてパッチテストを施行したところ,トリベノシド・リドカイン軟膏(ボラザG®軟膏)が陽性となり,接触皮膚炎症候群の原因薬として同定した。さらに成分パッチテストにて,トリベノシド,リドカインいずれも陽性であった。なおトリベノシドは 0.1% pet. で陽性となり,一方トリベノシド・リドカイン軟膏には約 11%のトリベノシドが含有されていることから,最低惹起濃度を大きく超える濃度のトリベノシドを粘膜面に連日外用したことが,接触皮膚炎症候群を惹起した原因であると推察した。痔疾患用外用剤は使用頻度の高い薬剤であり,遅延型アレルギーを生じた場合には接触皮膚炎症候群に進展する可能性が高いことを念頭に置き,十分な注意を払う必要がある。
亜鉛は人体における必須微量元素の中で 2 番目に多く,多数の蛋白構造や機能維持に関与し,酵素の活性・調整因子である。亜鉛は主に小腸で吸収され,生体内の様々な臓器に分布するが,皮膚は生体内で 3 番目に亜鉛を多く含有する臓器であり,皮膚の恒常性維持に亜鉛は必須である。亜鉛が欠乏すると様々な症状を引き起こし,その中でも皮膚において多岐にわたる症状を引き起こす。生体には亜鉛の恒常性維持のために調節機構が備わっているが,その主軸となるものが亜鉛トランスポーターである。Transient neonatal zinc deficiency(TNZD)は母親の SLC30A2 遺伝子変異によって,乳腺細胞の亜鉛トランスポーター ZnT(Zn transporter)2 に機能障害が生じ,乳汁中への亜鉛分泌量が低下し,低亜鉛母乳になる。乳児は通常,母乳から必要量の亜鉛を得ているため,母乳中の亜鉛量が減少した低亜鉛母乳を授乳していると,直ちに亜鉛欠乏に陥る。症例は完全母乳で育児中の生後 4 カ月の男児で生後 2 カ月より後頭部に紅斑が出現した。徐々に口周囲や肛門周囲に鱗屑を伴う紅斑が拡大したため,当科を受診した。母親は潜在性亜鉛欠乏症を認めたが,亜鉛欠乏症状は全くみられなかった。患児の血清亜鉛濃度低値と母乳中亜鉛濃度低値より臨床的に TNZD と診断した。TNZD は通常母乳栄養で発症し,人工乳では発症しない。離乳までの亜鉛補充または人工乳授乳が治療となる。
53 歳,女性。当科初診の20 年前に右拇指球部に自覚症状の伴わない陥凹性紅色局面が出現し,その後拡大した。皮疹部に外傷歴や刺激行為はなかった。ダーモスコピーでは紅色無構造であった。皮膚生検では健常部から病変部にかけて角層が階段状に菲薄化し,それに伴い顆粒層も菲薄化していた。Circumscribed palmar hypokeratosis の診断となった。活性型ビタミン D3 製剤を外用し,治療開始後 2 カ月の時点で辺縁の陥凹がわずかに平坦化した。本疾患は表皮の角化異常,ヒトパピローマウイルス感染,外傷などが原因として考えられているが,確立した見解はない。治療法は活性型ビタミン D3 製剤の外用,液体窒素凍結療法,外科的切除などの報告があるが,保存的治療では奏効しないことも多く確立した見解はない。本疾患は認知度が低く,誤診されることも多いため,中高年女性の掌蹠に生じた陥凹性紅斑を認めた場合,本疾患に留意する必要がある。本疾患の病態の解明や治療の確立のために,今後さらなる症例の蓄積が望まれる。
症例① 50 歳,男性。肺扁平上皮癌の術後リンパ節転移に対しシスプラチン,パクリタキセル,ペムブロリズマブを投与した。初回投与 8 日後に右鼠径部に紅斑が出現し,11 日後に発熱を認め,体幹四肢に紅色丘疹が拡大した。12 日後には口腔内にびらんが出現した。プレドニゾロン (PSL)内服に加えステロイドパルス療法を行い皮疹は改善傾向だったが,経過中ペムブロリズマブによる免疫関連有害事象として肝障害を発症し,再びステロイドパルス療法を行った。PSL 漸減時にミコフェノール酸モフェチルを追加し,肝障害,皮疹ともに改善した。症例② 87 歳,男性。上顎歯肉癌の術後再発,頚部リンパ節転移に対してペムブロリズマブを投与した。初回投与 7 日後に四肢を中心に水疱を伴う紅斑と口腔粘膜疹を認めた。病理組織では表皮下水疱と表皮全層に角化細胞壊死がみられ,ペムブロリズマブによる Stevens-Johnson 症候群と診断した。PSL 内服に加えガンマグロブリン大量静注療法,シクロスポリン内服により皮疹は改善したが,経過中肺炎により永眠した。今後免疫チェックポイント阻害剤の使用はさらに増加することが予想されるため,われわれ皮膚科医はその副作用について熟知し,適切に対処する必要がある。
78 歳,女性。当科初診 21 年前に潰瘍性大腸炎を発症した。当科初診 13 年前より右足に潰瘍が出現し,プレドニゾロン 5~10 mg/day を処方されたが完治しなかった。今回,腹部症状,皮膚潰瘍ともに悪化したため当科を紹介され受診した。皮膚生検にて真皮全層の血管周囲に好中球とリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤を認め,各種検査で感染症,血管炎,膠原病は否定的であったため壊疽性膿皮症と診断した。プレドニゾロン 30 mg/day の内服で腹部症状は軽快したが皮膚潰瘍は改善しなかった。糖尿病など複数の基礎疾患を有しており,抗 TNF-α 抗体製剤など免疫抑制に関連する薬剤の追加投与は感染症の危険性が懸念された。追加治療として,抗 α4β7 インテグリンモノクローナル抗体であるベドリズマブが投与されたが皮膚所見に効果を認めず,次に,顆粒球除去療法を計 9 回施行したところ潰瘍の著明な改善を認めた。壊疽性膿皮症は潰瘍性大腸炎など他疾患に併存することが多く,合併する疾患によって保険収載され使用できる治療薬が異なることもあり,皮膚所見以外の疾病治療も併せて他科専門医との緊密な連携が求められることも少なくない。また,近年壊疽性膿皮症に対してプレドニゾロンやシクロスポリンに加えて抗 TNF-α 抗体製剤,顆粒球除去療法,ミコフェノール酸モフェチルなど様々な治療薬が提示されているが,免疫抑制作用を有する薬剤を複数使用することで感染症の危険性が増大することも念頭に診療に臨む必要がある。顆粒球除去療法は潰瘍性大腸炎を含めた特定の疾患を併存した症例のみ保険適用が認められているが,感染症の増悪の危険性がないため,患者背景によっては特に有効な治療として期待される。
69 歳,女性。右前腕部の緊満性水疱を伴う紅斑の精査加療目的に当科を紹介され受診した。1 カ月前より右前腕部に自覚症状のない紅斑が出現し,次第に緊満性水疱が多発し,右上肢全体の発赤や腫脹,灼熱感および疼痛を伴うようになった。臨床像より水疱性類天疱瘡や蜂窩織炎が鑑別に挙がり血液検査をしたところ,大型な異型リンパ球の増加,好酸球増加,sIL-2R 上昇,抗 HTLV-1 抗体陽性を認めた。水疱部からの病理組織像では,表皮直下に水疱が形成され,真皮から脂肪織に異型リンパ球と好酸球が密に浸潤し,免疫組織化学染色では CD3,CD4,CD25,CD30 陽性,CD20 陰性であり,蛍光抗体直接法は全て陰性であった。皮疹部よりサザンブロット法で HTLV-I プロウイルス DNA のモノクローナルな取り込みを認め,Adult T-cell leukemia/lymphoma(ATLL)の特異疹と診断した。皮疹はステロイド全身投与と化学療法開始後に速やかに消退した。臨床経過と検査所見から好酸球性脂肪織炎を併発していると考えた。水疱を呈する ATLL の特異疹は稀であり,また,好酸球性脂肪織炎を併発した ATLL の報告例はこれまでになく,自験例が初めてである。自験例は血液検査および皮膚生検により診断が明らかとなった。難治性の水疱を呈する皮疹を認めた際は ATLL の特異疹の可能性も考え,精査することが重要である。
43 歳,男性。前医で初診 1 年前より生じた乾癬の外用治療を受けていた。初診 1 カ月前から腹部に紅斑,膿疱,鱗屑が生じ全身に拡大してきた。全身倦怠感,体動困難,四肢の関節痛で日常生活が困難となり,入院加療目的に当科に紹介され受診した。症状,血液検査,病理所見から膿疱性乾癬と診断した。シクロスポリン 200 mg/day とセレコックス 200 mg/day にて治療開始したが症状改善なく,抗 IL-17A 抗体であるセクキヌマブ 300 mg 皮下注の併用を開始した。投与 3 回目で症状は改善し始め,同薬導入期の 5 週連続投与を終了後に退院した。退院後は日常生活レベルの活動で 38 度の発熱,関節痛,全身倦怠感が再燃し,4 週間隔投与となるセクキヌマブの維持療法では症状コントロールが困難となったため,抗 IL-17 受容体 A(IL-17RA)抗体であるブロダルマブ 210 mg 皮下注に変更した。症状は速やかに改善したが,配送業の仕事を再開し症状が再燃したため,シクロスポリンを中止しエトレチナート 40 mg/day を追加した。エトレチナートを導入後,症状は軽快したが,仕事が忙しくなると全身倦怠感,関節痛が再燃するため,さらにアプレミラスト 60 mg/day を追加したところ症状は寛解した。現在は服薬漸減しブロダルマブ 210 mg 皮下注,アプレミラスト 30 mg/day,セレコックス 200 mg/day 内服で皮疹,全身倦怠感の再燃なく,関節痛も自制内で経過している。