
近年,中咽頭癌におけるヒトパピローマウイルス(HPV)感染が問題となっている。特に米国においては中咽頭癌の罹患率が増加しているが,その原因としてHPV陽性の中咽頭癌が増加していることが指摘されている。一方,HPV陽性の中咽頭癌はその発癌メカニズムの違いにより,生物学的な悪性度が異なることが指摘されている。今回,頭頸部癌基礎研究会において,中咽頭癌のHPV感染に関して全国レベルでの調査研究を行い,わが国の中咽頭癌症例におけるHPV感染の現状を調査した。本研究は頭頸部癌基礎研究会にて行い,2009年5月に症例の登録が開始された。HPVの検出はPCRとハイブリッドキャプチャーII法(HC2)で行った。中咽頭癌症例は157例登録され対照として正常扁桃112例が登録され解析された。対照症例のうち,HPVは1例に検出され112例は陰性であった。すなわち陽性率は0.9%であった。中咽頭扁平上皮癌の157例では79例においてPCRでHPV感染が検出されHPV感染率は50.0%であった。HPVのタイピングではHPV16が70例で88.6%を占めた。HPV感染の有無による臨床的特徴について,HPV陽性ではStage IVの割合が多く,組織学的に低分化の傾向がみられた。発生部位では側壁が92.4%とほとんどを占めた。喫煙と飲酒に関しては,HPV陽性例で非喫煙,非飲酒の割合が多かった。次にStage IIIとIVについて治療法別に予後を検討したところ全生存率でHPV陽性例が陰性例に比較して予後が良好である傾向が認められた。スクリーニングとして行ったHC2法とPCRを比較したところ感度93.7%,特異度96.2%であった。今回の研究で,わが国の中咽頭扁平上皮癌におけるHPV陽性率は50%であることがわかりその臨床的特徴も欧米で報告されているものと同様である結果となった。
2005年の頭頸部癌取扱い規約改訂第4版より,表在癌の病型分類が記載される様になったが,現時点でその意義は明らかにされていない。当院で治療を行った中下咽頭表在癌176例262病変を対象に,病型分類と臨床病理学的関係について検討した。中下咽頭表在癌における病型分類の違いにより,腫瘍の厚みおよび上皮下浸潤頻度に有意な差が確認された。またリンパ節転移例はいずれも0-I型または0-IIa型にのみ認められた。続いて,同一病変を耳鼻咽喉用内視鏡と上部消化管内視鏡でそれぞれ観察し病型分類診断を行ったところ,診断の不一致が確認されたのは全体の4.0%のみであった。いずれも上部消化管内視鏡で0-IIaと診断されたが耳鼻咽喉用内視鏡では0-IIbと診断されたもので,比較的腫瘍の厚みが小さく,リンパ節転移例は認めなかった。リンパ節転移の可能性があるため0-I型および0-IIa型表在癌の病型分類診断は大切であるが,耳鼻咽喉用内視鏡での病型分類診断は十分実用に耐え得るものと思われた。
頸胸境界部の進行食道癌は,気管浸潤をきたし易く,その完全切除には縦隔気管瘻の造設が必要な場合がある。縦隔気管瘻には,致命的な合併症を高率に伴うことが報告され,これまでに,合併症を回避する目的で,種々の筋皮弁を用いた造設法が検討されてきた。今回,頸胸境界部の食道癌に対する手術法,特に縦隔気管瘻の造設法について述べる。【術式の要点】骨性前胸壁を広範囲に除去する。気管を上行大動脈と上大静脈との間より前胸壁に引き出す。全大網の付着した胃管を作製する。後縦隔経路にて大網と共に胃管を挙上する。大網を用いて,気管周囲,主要血管,吻合部を広く被覆する。【総括】頸胸境界部食道癌に対する喉頭食道全摘後の縦隔気管瘻の造設において,大網を利用する本術式は,手技が簡便・確実で,優れた造設法の一つと思われる。
1989年から2002年までの14年間に久留米大学病院で入院加療を行った下咽頭癌患者214症例を対象とし, 外側咽頭後 (ルビエール) リンパ節転移について病期別の転移率, 組織学的転移陽性例 (pN+) の生存率や遠隔転移の有無, また再発症例 (rN+) については郭清と照射の有無等の検討を行った。下咽頭扁平上皮癌214例中21例 (10%) に外側咽頭後リンパ節転移を認めた (stage I: 0%, II: 3%, III: 10%, IV: 12%)。外側咽頭後リンパ節がpN (-) の5年死因特異的生存率は69%, pN (+) では41%とN (+) のほうが有意に不良であった (p<5%)。咽頭後リンパ節郭清を行った76例中14例 (19%) がpN (+) であった。またpN (-) 62例中8例13%にのみ遠隔転移を認めたが, pN (+) 14例では6例43%に遠隔転移を認め, pN (-) に比べpN (+) のほうが有意に多く遠隔転移をきたしていた (p<1%)。郭清と照射を行った65例中11例はpN (+) であったが, 外側咽頭後リンパ節の再発を認めなかった。
口腔癌患者の予後向上のためには, 癌の性質を考慮した治療を行うことが重要である。組織学的悪性度が局所再発や転移などの予測因子となりうるか, またそれを治療法の立案に反映させた場合に予後向上に寄与するか否かを検討した。Lund による悪性度評価法導入前に治療した症例215例について, retrospective に悪性度と予後の関連を調べ, その結果を反映させた治療を, 1992年以降の症例227例に実施した。すなわち, 高悪性度の患者に対して, 安全域の拡大, 予防的頸部郭清の導入, 経過観察の強化などを行い, その治療成績について改善の有無を検討した。前期症例と後期症例の5年生存率は高悪性群で53.9%→73.8%, 再発率が30.8%→13.5%, 後発転移率が35.4%→26.1%と改善された。高悪性度の患者は予後不良であった。悪性度評価は重要な予後因子であり, 高悪性群に分類された患者に対しては適切な治療を行うことにより, 治療成績を改善しうることが示された。
進展した鼻副鼻腔悪性腫瘍に対しては眼窩内容や頭蓋底を含む腫瘍の一塊切除による拡大手術により治癒率が向上した。近年, 内視鏡手術は副鼻腔の炎症性疾患に対してかつての外切開手術に比べてより侵襲の少ない手術として広く行われその適応も拡大されつつある。今回, 鼻副鼻腔悪性腫瘍に対して内視鏡を補助的に用いた手術症例を経験した。腫瘍が固有鼻腔に限局し, 画像検査や内視鏡所見より安全域を持った切除が可能な症例では, 内視鏡下切除も有効である。また, 様々な要因のために拡大手術が行えず縮小手術となった場合にも, 内視鏡を用いることで副鼻腔深部において明瞭で死角の少ない視野が得られるため, 外切開を併用することで十分なワーキングスペースがあれば深部における操作に内視鏡を併用することは有効である。但し内視鏡を用いても周囲組織を含めた合併切除を安全で容易にするものではなく, 内視鏡はその他の機器と同様にあくまでも手術支援装置の一手段として個々の症例に応じて用いるべきであると思われる。
フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤TS-1を用いて頭頸部癌再発23症例に対して外来経口投与を行い以下の結果を得た。1) CR1例を含め、奏効率は30.4%であった。2) 同一症例にて血小板, 呼吸器に Grade 4の有害事象が認められた。腎機能障害を有する症例で治療として血小板輸血, ステロイド投与しその後, 有害事象は回復し可逆的である事が確認された。この症例以外は, 特に重篤な有害事象は, 認めなかった。3) 頭頸部癌再発症例においても他剤と同等の効果をもち外来で安全に投与できた。4) 肺転移症例においては, TS-1投与群で median survival time 585日, TS-1非投与で入院化学療法中心群では120日であった。5) 外来通院可能なTS-1投与群のほうが治療後のPSの悪化を認めず, QOLは良好であった。これらのことより, TS-1投与により肺転移症例においてQOLの維持の可能性が外来通院化学療法にて示唆された。
可動部舌半切術後の再建においては, 残存舌の機能を障害しないよう, 必要かつ十分な量を持った組織の移植が必要となる。本施設では舌半切術後の再建を遊離前腕皮弁ないし遊離腹直筋皮弁により行ってきた。これらの症例に術後の構音, 嚥下機能と術後画像の評価を行い, 可動部舌半切に必要な再建方法について検討した。対象は当施設で舌半側切除術を施行し, 術後の構音, 嚥下, 移植組織の量について調査できた16例 (男13:女3) 再建組織は遊離前腕皮弁が8例, 遊離腹直筋皮弁が8例であった。検討結果は、画像診断で遊離前腕皮弁再建例は組織量不足の傾向に, 腹直筋皮弁例では組織量が多い傾向にあったが, いずれも嚥下, 構音について特に問題はなかった. 概して日本人の場合, 極度に肥満した症例は少ない。舌可動部半切後の再建方法としては, 肥満の症例には遊離前腕皮弁が, 痩せた症例には遊離腹直筋皮弁がよい選択肢になると考えられた。
近年, 重複癌の増加が注目されている。1995年1月から2000年12月の間に当科で治療した頭頸部癌症例337例中, 76例 (22.8%) に重複癌が見られた。約85%は食道, 胃, 頭頸部領域に見られた。以前当科で1982年から1992年の問に治療した頭頸部癌における同時食道癌について報告した。その頻度は今回我々が調査した結果と同程度であった。これは, 1980年ごろから上部消化管内視鏡検査を重要視し, スクリーニングを行ってきた結果と考えている。頭頸部癌の治療を行ううえで重複癌の存在は無視できない因子であり, 上部消化管内視鏡検査の有用性を認識した。
放射線根治治療を選択した進行喉頭・下咽頭癌症例について検討した。1986年から2002年までに根治治療として放射線治療を選択したStage III・IVの喉頭・下咽頭癌症例120例 (Stage III25例・IV95例, 喉頭癌50例, 下咽頭癌70例) を対象とした。放射線単独が89例, CF療法同時併用が31例であった。喉頭癌, 下咽頭癌では, 初回放射線治療による局所および頸部の制御率には差を認めなかった。一方, Stage III症例の制御はStage IV症例に比べ良好であった。下咽頭癌の放射線効果を高めるためにCF療法の同時併用が有用である可能性が示唆されたが, 化学放射線同時併用療法後の救済手術は困難と思われた。救済手術は切除可能と判断した症例に, 厳密な適応のもとで施行する必要があると考えられた。
我々は舌全摘・亜全摘や軟口蓋全摘例に対し, 遊離皮弁による再建と共に両側側頭筋を移行し機能再建している。今回広範切除再建例に発語明瞭度の分析と構音嚥下時 video 透視をした。側頭筋は顔面神経麻痺動的再建に用いる Rubin の術式と同様に挙上した。Video 透視にて側頭筋移行は static なつり上げのみならず, 予想以上に dynamic な動きが観察された。日常生活では全症例誤嚥なく食餌摂取が可能である。構音機能は良好で, 軟口蓋再建例ではほぼ正常の機能が獲得された。文章了解度は軟口蓋再建例で96.7%, 舌全摘例で55.6~100%を示した。舌全摘でも電話を使用している。これは側頭筋自体の動きに加え, 残存した咽頭周囲筋の動きを側頭筋が再建皮弁に伝達しているためと推測された。再建舌は口蓋化構音となり代償的に満足のいく発音をしている。
当科では可動部舌半側切除に伴う再建として, 手術時間に制限がある場合大胸筋皮弁, 制限がない場合遊離皮弁で再建を行っている。その中で, 前腕部皮膚が非常に薄い症例や再建舌の術後機能より審美的考慮を優先する場合腹直筋皮弁を, それ以外は前腕皮弁を選択している。また, いかなる皮弁を選択しようとも十分な容積を確保して機能的再建を果たすため, やや大きめの皮弁を採取し再建している。そこで, 当科で治療を行った可動部舌半側切除50症例 (前腕皮弁38例, 腹直筋皮弁4例, 大胸筋皮弁8例) を対象としてその再建法を再考した。(結果) 前腕皮弁はその柔軟性より残存舌の動きを妨げず術後機能に優れていたが, 採取部に審美的問題があった。腹直筋皮弁は嚥下は非常に良好なものの, やや電話での会話が聞きづらかった。大胸筋皮弁は術後機能の面では劣るものの手術時間は最短であった。以上のことから, 可動部舌半側切除の再建には前腕皮弁が最も適していた。
遠隔転移 (M) は甲状腺乳頭癌 (PTC) において最大の予後不良因子であるが, PTCのMには長期間進行しない例も少なくなく, その予後予測は容易でない。当科におけるPTC 604例 (1976~98年, 微小癌は除く) 中, 初回治療時Mを認めたものは32例 (5.3%), 術後経過観察中にMを認めたものは26例 (4.3%) であった。全M症例58例中28例 (48.3%) が原病死していたが, うち5例は局所の原因による死亡であった。一方, 7例は治療によりMが消失していた。5年以上の経過観察でMが進行していない24例とMが急速に進行した24例を比較すると, 前者には若年者, Mが小さいもの, 肺のみに遠隔転移したもの, 原発巣の病理組織像が高分化成分主体のものが有意に多かった。Mに対しては131Iによる内照射治療や切除手術を適宜行うが, 特に進行の遅いことが予測されるM症例では, 局所の制御も重要であると考えられた。
甲状腺癌手術において反回神経麻痺は可及的に避けねばならない合併症であるが, 時に, 癌の浸潤のために反回神経を犠牲にせざるをえない場合がある。一側の反回神経麻痺は致命的ではないが, 患者の苦痛は深刻である。正常な声帯の可動性が再獲得できないことから, 従来から神経の再建は必要ないとされてきたが, 声帯の萎縮防止と発声時に声帯が緊張するため, 音声は良好である。今回, 反回神経の即時再建を13例に施行した。神経間移植が5例, 頸神経ワナ-反回神経吻合が8例に行われた。声帯の可動性は全例で認められなかった。MPTが9例において正常に, 呼気流量 (VC/MPT) が11例において正常範囲に復帰した。一方で, 非再建群では, MPT, VC/MPTとも正常化したものはなかった。MPT, VC/MPTによる音声機能評価では, 神経の即時再建は有用であると言える。
ヘパラナーゼは多くの癌細胞において産生され, その活性はその癌の転移能と相関するとされている。今回, 1997~2000年に加療した口腔扁平上皮癌25症例を対象として, 生検および手術標本から Quantitative RT-PCR法により, ヘパラナーゼのmRNA発現を測定し, 頸部リンパ節転移との関連を検討した。初回頸部郭清術を施行した11例中5例に組織学的頸部リンパ節転移を認め, このうち3例にヘパラナーゼmRNAの高発現を, 1例に中等度発現を認めた。また, 後発転移例6例では, 1例に高発現3例に中等度発現, 2例に低発現を認めた。ヘパラナーゼmRNA発現の有無と頸部リンパ節転移発現との間には有意差を認め, ヘパラナーゼが頸部リンパ節転移に関与する重要な因子であることが示唆された。
1993年5月より2001年12月までに当科に入院した上顎洞悪性腫瘍64例について臨床的検討を行った。男性49例, 女性15例, 平均年齢63 (39-93) 歳, 根治治療例47例, 姑息治療17例, 一次治療50例, 二次治療14例, 扁平上皮癌52 (81%) 例であった。Kaplan-Meier 法による全体の5年生存率は44%, 根治治療例は59% (n=47), 一次根治例は55% (n=42), 扁平上皮癌の一次根治例は60% (n=36) であった。リンパ節転移の有無, 既往治療, 根治度で有意差を認めた。
頭頸部悪性腫瘍の下顎骨への浸潤様式は軟部組織から骨皮質・髄質へと骨破壊を伴いながら深部へ進展する直接浸潤と下顎管に沿った骨髄内進展である。また, 臨床病理学的には骨浸潤は溶骨型, 造骨型, および骨梁間型に分類される。下顎骨切除範囲の決定は, 高分解能MRIを中心とした画像診断が必要であるが, 骨髄内転移・播種の有無や根治照射などの既治療により腫瘍が線維化した場合などは, 腫瘍の下顎骨への浸潤状態を診断するのは容易ではない。今回, 下顎骨を合併切除した頭頸部悪性腫瘍のなかで, 硬組織大切片標本と術前画像診断の対比が可能であった18例について, 骨皮質および骨髄への浸潤態度について病理組織学的に観察し, 術前画像検査による正確な骨髄内浸潤の可否について検討した。下顎骨に浸潤した扁平上皮癌16例はすべて溶骨型で骨髄内転移はなく, 下顎骨髄内を連続性に浸潤していた。下顎骨に浸潤する扁平上皮癌は骨梁間型ではなく, 連続性のある骨破壊性の直接浸潤であるので, 高分解能MRIにより正確な骨浸潤の診断と充分な安全域をもつ適切な下顎骨切除範囲の設定が可能であると考えられる。
頭頸部癌切除後に灘皮弁を用いて再建することは標準的な再建術式として現在では捉えられている。今回は遊離皮弁で再建した舌癌広範囲切除症例の嚥下・構音機能について検討をおこなった。舌根を含めて全摘をした1症例では最終的に喉摘を行ったが, 舌根がわずかでも残せた症例は経口摂取が可能であった。構音機能に関しては切除範囲が大きいほど不良であった。また, 口腔底切除症例も構音機能は不良であった。