
要旨 【背景】 肥満細胞性白血病(mast cell leukemia: MCL)の化学療法直後に反復するアナフィラキシーショックにより集中治療を要した1例を経験したので報告する。 【症例】 49歳女性,MCLに対する臍帯血移植後再々発のために入院した。化学療法開始前から特に誘因なく血圧低下,酸素化低下,皮膚の紅潮の症状があったが,寛解導入療法第1病日の化学療法直後に著しい血圧低下,顔面の紅潮,酸素化低下を来し,化学療法によるアナフィラキシーショックの増悪と診断した。気管挿管の後,輸液負荷,アドレナリン0.3mg筋肉内注射(以下,筋注),ステロイド,ヒスタミンH1受容体拮抗薬の投与を行い,一時的にショックから離脱したが,その後もアナフィラキシーショックを数時間ごとに反復した。各種標準的治療への反応性に乏しく,アドレナリン持続静脈内注射を行った。以降,状態は安定し,その他腫瘍崩壊症候群を来すことなく経過して第6病日に抜管した。 【結語】 MCLは稀であるが,化学療法導入直後に腫瘍細胞傷害としてアナフィラキシーショックを反復することがあり,アドレナリンの持続投与を検討する必要がある。
要旨 【背景】 Time limited trial(TLT)とは,決められた期間に特定の治療を行い,結果に基づいて改善・悪化を判断し,治療の継続もしくは緩和ケアに目標を変更することを治療開始前に決めることを指す。Veno–venous extracorporeal membrane oxygenation(V–V ECMO)では,生命維持をECMOに依存する離脱困難な状況となる場合があり,事前にTLTを提示することで円滑に緩和ケア移行できる可能性がある。 【症例】 70歳の男性で肺がんに対し,前医で肺葉切除術を施行するも,術後エアリークがあり,複数回の手術を要した。初回手術から3週間後に抜管するも,呼吸状態の増悪を認め,3日後に再挿管するも,さらに増悪し,当院に相談となった。誤嚥性肺炎が主病態であり,可逆性があると判断した。患者背景から,長期のECMO管理は患者価値観に乖離するため,TLTでECMOを行う方針とした。胸部X線写真が改善した8日目,除水・腹臥位療法後の18日目,鎮静調整後の21日目にECMO離脱トライアルを行うも,いずれも離脱困難であった。上記から,治療中止の方針に移行し,24日目に緩和目的にECMOを離脱し,同日死亡確認となった。 【結語】 TLTを事前に設定することで,ECMO離脱困難な場合に,円滑に緩和ケアに方針を移行できる可能性が示唆された。
要旨 【目的】 2016年の前回調査から「救急隊の感染防止対策マニュアル」の発出およびCOVID–19のパンデミックを経た病院前救護活動における感染防止対策の変化と,現在の病院前救護活動における課題を明らかにすることを目的とした。 【方法】 2024年6月に全国720消防本部を対象として,感染防止対策マニュアルの整備体制,教育体制,現場活動時の感染対策,曝露事故発生時の対応について書面またはweb回答による調査を実施し,2016年調査との比較を行った。 【結果】 全国650消防本部から有効回答を得た。2016年調査と比較して,感染防止対策マニュアルの整備率,感染防止対策教育の実施率,標準予防策実施率はいずれも大きく改善した。一方,マニュアル作成や教育における医師・感染専門家の関与は限定的であり,定期的な感染対策教育を実施している消防本部や24時間対応可能な協力医療機関を有する消防本部は半数程度に留まり,曝露事故対応マニュアルの整備も十分とは言えなかった。 【結語】 病院前救護活動における感染防止対策は大きく改善したが,医療機関との連携体制構築が今後の課題である。救急搬送事案が増加するなかで安全な病院前救護活動を担保するためにも,地域メディカルコントロール協議会への感染制御専門家の参画を含め,感染制御専門家や救急医と消防機関との協働推進が重要である。
要旨 【背景】 胸腔ドレナージによる肺損傷の対処方法には明確なガイドラインはない。胸腔ドレナージによる肺損傷に関する報告は本邦でも散見するが,多くの場合手術治療が行われている。今回我々は,胸腔ドレナージによる肺損傷に対し,刺入ドレーンからのフィブリン糊充填療法による保存的治療を行い,良好な結果を得たので報告する。 【症例】 70歳台の男性,悪性胸膜中皮腫の疑いで当院呼吸器内科により胸腔鏡下胸膜生検が行われ,検査後胸腔ドレーンが留置された。直後から気漏を認め,ドレーン刺入部から胸水漏れも認めた。3日後に胸部CTを撮影したところ,右下葉への胸腔ドレーンの刺入を確認した。呼吸循環状態は安定していたが,気漏を認めるため,刺入胸腔ドレーンからフィブリン糊充填療法術を行った。術直後から気漏は消失し,4日後に刺入ドレーンを抜去した。 【結語】 胸腔ドレーンによる肺損傷の対応において,大量出血等の重篤な合併症を認めず,呼吸循環状態が安定している場合は,刺入ドレーンからのフィブリン糊充填療法は,全身麻酔や胸腔鏡を用いず低侵襲で行えるため,有効な治療法となりえる。
要旨 【背景】 脂肪注入術は近年乳房再建や美容外科領域で普及しているが,様々な合併症の報告が散見される。今回,脂肪注入乳房増大術後に生じた乳房内膿瘍に対し外科的治療を施行した症例を経験したため文献的考察を交え報告する。 【症例】 40歳の女性。来院9日前に美容クリニックで腹部等の脂肪吸引および脂肪注入乳房増大術が施行され,術後にセファクロルが処方された。術後4日目から右胸部腫脹を自覚し,7日目に熱感も出現したため同クリニックでセファゾリンの点滴とレボフロキサシンの内服が開始された。9日目の再診時に改善を認めず,血液検査で炎症所見を認めたため当院に受診した。来院時Japan coma scale 1,体温39.2℃,心拍数115/分,血圧131/78mmHg,呼吸数25/分,SpO 2 98%(室内気),右乳房は著明に腫脹・熱感を呈しており,CTで右乳頭直下~腋窩にかけてガス産生と膿瘍形成を認めた。同日,右乳房内膿瘍ドレナージ術を実施し,タゾバクタム・ピペラシリンを開始した。創部培養からは Enterococcus avium , Peptostreptococcus sp. が検出された。術後経過は良好であり,第7病日にアモキシシリン・クラブラン酸の内服に切り替えて独歩で退院した。 【結語】 脂肪注入による合併症では治療が遅れると敗血症に至ることもあり,救急部門での対応を要する症例も増える可能性がある。
要旨 【背景】 高齢者のけいれん発作では非外傷性骨折を生じることがあり,日常生活活動度(activities of daily living: ADL)の低下を来す骨折を起こしうる。けいれん発作に伴う非外傷性骨折が,高齢者の自立した生活を損なう可能性については十分に認識されていない。早期からのリハビリテーションにもかかわらず,著しいADL低下を来した高齢者のけいれん発作による寛骨臼骨折症例を経験したので報告する。 【症例】 80歳代の男性。けいれん発作により二次的外傷を伴うことなく寛骨臼骨折を合併した。機能的再建のためには寛骨臼再建を併用した人工股関節全置換術が必要であったが,年齢や併存疾患などによる評価,患者・家族との協議のもとに保存的加療とした。疼痛コントロールを行いながら入院翌日からリハビリテーションを開始したが,認知機能低下やせん妄,長時間の施行が困難であったことなどから,積極的な離床は困難な状況が続いた。早期からリハビリテーションを実施したが,受傷前と比して著しいADLの低下を来した。 【結語】 高齢者のけいれん発作では非外傷性骨折が起きうることを認識し,適切な診察や検査が必要である。
要旨 【目的】 特発性腹部内臓動脈解離(spontaneous isolated visceral artery dissection: SIVAD)は従来まれな疾患とされてきたが,その疫学的特性は十分に明らかでない。本研究は,医療の区域完結性の高い滋賀県湖北地域(人口約15万人)の急性期2病院におけるSIVAD症例を対象に,罹患率・臨床的特徴を明らかにすることを目的とした。 【方法】 研究デザインは,2施設による共同後ろ向き観察研究。2009~2023年に診断された40例を後方視的に解析した。【結果】湖北地域での粗罹患率は1.66人/10万人・年であり,発症年齢は中央値52.5歳 , 罹患率比は4.2倍と男性に多かった。解離血管は上腸間膜動脈系が最多で,初診時正診率は50%と不良で,単純CTのみで本疾患を疑えた症例はさらに少なかった。治療は33例で保存的に行われ,処置例も含め死亡例は認めなかった。 【結語】 今回の研究からSIVADは「極めてまれ」ではなく「臨床現場で遭遇しうる疾患」と再評価されるべきである。突然の強い腹痛や背部痛を呈する比較的若年者においては,本疾患を鑑別診断に挙げることが重要であり,診断体制の整備が今後の課題である。
要旨 【背景】 ガス産生を伴う後腹膜膿瘍が広範囲に波及した場合には,感染制御が困難となり,抗菌薬やドレナージのみでは不十分となる可能性がある。 【症例】 症例は79歳の男性,腰痛を主訴に近医を受診し,腸腰筋膿瘍の診断で当院に紹介された。CTで左大腿部まで進展したガス産生後腹膜膿瘍と診断し,抗菌薬投与に加え緊急で後腹膜切開排膿術・左大腿部切開排膿術を施行した。創部は開放創のまま管理し,第2病日からは2絶対気圧で60分の高気圧酸素治療を10日間併用した。第9病日に残存膿瘍に対しCTガイド下ドレナージを施行し膿瘍腔は消失,その後は経過良好で第23病日に独歩で自宅へ退院した。 【結語】 後腹膜膿瘍が広範囲に波及した症例では,外科的ドレナージ後に創部を開放した状態で,入院早期から高気圧酸素治療を併用することが病態改善に寄与する可能性がある。
要旨 【背景】 新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID–19)で血栓症の頻度が高いことは知られているが,出血性合併症は稀であり,そのほとんどは抗凝固療法中に生じている。 【症例】 40歳代の女性,既往は高血圧,慢性腎臓病(腎移植術後)で,タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチル,メチルプレドニゾロンを内服していた。近医でCOVID–19と診断されモルヌピラビルを処方されたが,発症13日目に経口摂取が困難となり,当院に入院した。入院時の腹部CTで左腹直筋背側に血腫がみられた。血小板数,血液凝固系検査は基準値内であった。入院5日目に腹痛が出現し,腹部CTで腹直筋血腫の増大があったため,経カテーテル動脈塞栓術を施行した。本症例は入院前に抗凝固薬,抗血小板薬の内服歴や出血歴はなく,入院中に抗凝固薬は使用しなかった。 【結語】 COVID–19では,抗凝固療法を行っていなくても,患者背景によって出血性合併症を来すことがあり,注意を要する。
要旨 【背景】 経肛門的小腸脱出は稀な病態であり,直腸穿孔を合併し,直腸壁の破綻部を介して小腸が肛門外に脱出した症例が報告されている。慢性直腸脱による直腸壁の脆弱化が発生に関連する。我々は,直腸脱の既往がない患者に生じた,直腸穿孔を伴わない直腸脱に合併した経肛門的小腸脱出という極めて稀な症例を経験した。 【症例】 69歳の女性。排便時に怒責した際,肛門から腫瘤が脱出する感覚と強い痛みを自覚し救急要請した。前医で用手整復を試みられるも還納できず,当院へ転院搬送された。身体所見上,肛門部に約25cm長のうっ血と浮腫を伴う直腸の脱出を認めた。腹部造影CT検査で,直腸脱内に嵌入した小腸と,小腸腸管の拡張,液体貯留を認め経肛門的小腸脱出と診断した。経会陰的整復は困難と判断し緊急開腹手術を施行した。ダグラス窩に嵌頓した回腸を認めたため,経肛門的に脱出した腸管を圧迫しつつ,腹腔内から牽引することで,回腸および直腸を還納した。バウヒン弁より口側20~30cmの回腸および直腸Rs~Raに虚血所見を認めたが,術中のインドシアニングリーン蛍光造影法により残存血流が確認されたため腸管切除は回避した。術後経過は良好で術後10日目に退院した。 【結語】 本患者は直腸脱の既往がなく直腸壁が菲薄化していなかったため,穿孔に至らなかった可能性がある。稀な臨床所見,画像検査結果を共有することで,早期診断・治療につながると考え報告する。
要旨 【目的】 3つの異なる気管切開方法(外科的気管切開,経皮的気管切開,ハイブリッド気管切開)の臨床的特徴と合併症発生率を調べ,全症例を対象として気管切開方法と頸部CT所見や他の因子と合併症の関連を検討する。 【方法】 2019年1月から2024年6月に当院で待機的に気管切開を施行した成人患者に対して後方視的検討を行った。2週間以内の短期合併症の有無で患者背景,周術期所見,頸部CT所見の測定値,死亡率等を比較し,多変量解析を行った。 【結果】 期間中に256例のうち209例が対象となり,48例が短期合併症を発症し,7例は重度と判断されたが,手技に関連した死亡は認めなかった。3群で合併症発生率に差はなかった(外科的気管切開:22.7%,経皮的気管切開:20.8%,ハイブリッド気管切開:38.9%,p=0.230)。多変量ロジスティック回帰分析では,抗血栓薬投与(オッズ比:8.13,95%信頼区間:1.30–51.0),手術時間(オッズ比:1.03,95%信頼区間:1.00–1.05)が合併症との関連が示唆された。 【結語】 気管切開方法や頸部CT所見と短期合併症は本研究規模では明確な関連を示せなかった。抗血栓薬使用,手術時間は短期合併症に関連する可能性があり注意を要する。ハイブリッド気管切開の有用性を明らかにするにはさらなる研究が必要である。
要旨 【背景】 斜台骨折は頭部外傷において稀な骨折であり,近接する脳底動脈を損傷しうる。脳底動脈損傷は広範な橋梗塞を来し,死亡率も高い。今回,脳底動脈損傷により閉じ込め症候群に至った症例を経験したので報告する。 【症例】 50歳代の女性。3階からの墜落後に搬送された。来院時,急性硬膜外血腫を認め開頭血腫除去術を施行した。術後も四肢麻痺を伴う意識障害が持続し,第4病日に施行したmagnetic resonance imaging(MRI)で橋梗塞を認めた。Magnetic resonance angiography(MRA)では斜台骨折部への脳底動脈の嵌頓・狭窄が示唆され,外傷性脳底動脈損傷と診断した。さらに髄液鼻漏に対し経鼻内視鏡下硬膜修復術を施行した。第18病日に垂直方向の眼球運動による意思疎通が可能で,水平眼球運動障害と四肢麻痺を認め,閉じ込め症候群と診断した。気管切開および胃瘻造設後,リハビリテーション目的に転院した。 【結語】 斜台骨折では脳底動脈損傷を念頭に精査し,意識障害例では閉じ込め症候群を鑑別に挙げる必要がある。
要旨 【背景】 Edwardsiella tarda は海水環境に生息する細菌で,人では調理が不十分な魚介類を摂取することで主に胃腸炎を起こす。敗血症に進展することは稀だが,発症時の死亡率は約30%と報告されている。当院における Edwardsiella tarda による凝固機能障害を伴う肝胆道感染による敗血症の症例を呈示する。 【症例】 70歳代の男性。呼吸困難を主訴に救急搬送された。循環動態は不安定で,腹部単純CTで肝膿瘍,総胆管の拡張,胆嚢腫大を認めた。肝胆道系感染による敗血症性ショックと診断し,輸液負荷,抗菌薬投与,循環作動薬投与を開始した。同日内視鏡的逆行性胆管ドレナージを行うも胆道内血腫が原因で良好なドレナージが得られず,後にステント交換を要した。輸血や透析を含む集中治療管理を行いながら第5病日に肝膿瘍に経皮経肝膿瘍ドレナージと壊疽性胆嚢炎に対して経皮経肝胆嚢ドレナージを施行した。しかし,肝膿瘍内も血腫のためドレナージに難渋し,ドレナージチューブを7Frから14Frまで徐々に大きくした。第28病日に循環作動薬,抗菌薬は終了し,第75病日に転院となった。 【結語】 本菌による肝胆道系感染の敗血症は,高度な凝固障害を併発することが稀にあり,易出血性,血腫形成によりドレナージに難渋することがあるため,個別病態に応じた柔軟なドレナージ戦略が重要である。
要旨 【背景】 糞便微生物移植(fecal microbiota transplantation: FMT)は,難治性の Clostridioides difficile infection (CDI)への有効性が確立されている。しかし,CDI以外の腸内細菌叢が崩壊している難治性下痢症を対象としたFMTの報告は限られている。 【症例】 症例は,70歳代の男性。敗血症性ショックで入院後,最大2,040mLの下痢が2か月以上継続していた。Gut dysbiosisを伴う難治性下痢症の診断で,第71病日にFMTを行った。投与前は,排便回数が5~10回/日であったが,投与28日後には,排便回数は3回未満に減少した。また,血中アルブミン,タンパク,リンパ球数,IgGが増加した。便のメタゲノム解析では,FMT前はほとんどがProteobacteria門とFirmicutes門で占められ,最優勢菌の1つであるBacteroidetes門は1%以下と腸内細菌叢の崩壊が進行していた。FMT施行後の28日目には,Bacteroidetesが34%まで増加した。 【結語】 FMTにより,難治性下痢症の消化器症状,低栄養状態,免疫状態などが腸内細菌叢とともに改善することが示唆された。
要旨 【目的】 南海トラフ地震や首都直下地震では,数千人から数万人規模の熱傷患者が発生すると想定されている。 【方法】 日本熱傷学会は,全国の救命救急センター,熱傷専門医認定研修施設,基幹災害拠点病院の306施設を対象に,2023年10月から4か月間にわたってウェブアンケートを実施し,多数の熱傷患者が発生した場合の熱傷診療能力(サージキャパシティー)について調査した。 【結果】 212病院から回答を得た。2024年1月現在,熱傷初期診療が受けられる熱傷患者数は全国で1,720人,後方搬送により集中治療が受けられる重症患者数は356人であった。しかし想定される熱傷患者数はこれをはるかに上回る。また熱傷患者数は近年減少傾向にあるため,災害医療の第一線で活躍する救急医が熱傷診療に携わる機会も減少しつつあり,それも懸念事項である。 【結語】 平時から熱傷診療に携わる機会を確保し,救急医や形成外科医だけでなく,多くの医師が災害時の熱傷診療に従事できるようにすること,診療ガイドラインや標準化コースなどを活用して熱傷初期診療を普及させること,熱傷専門医の数を増やし地域偏在を解消すること,そして全国的なネットワークを強化することは,災害時に熱傷診療ができる医師と病院を増やし,サージキャパシティーを拡大することにつながる。この取り組みを進めるためには,熱傷診療についてのさらなる啓発と普及を,平時からの備えとして行うことが特に重要である。
要旨 【目的】 くも膜下出血は一定数が初診時に見逃されている。当院救急外来を受診しCTでのくも膜下出血が見逃された症例を検討し,臨床的特徴を記述することで今後の見逃し防止に寄与することを目的とする。 【方法】 本報告はカルテレビューに基づく単施設記述研究である。対象は2014年4月から2024年3月の間に当院救急外来を受診し頭部CTを撮影した18歳以上の症例で,くも膜下出血および類似病名がつけられた患者である。各症例について,年齢,性別,症状,Glasgow coma scale(GCS),発症からの時間,来院時間帯,来院手段,救急医の介入の有無,出血部位,見逃しの有無に関するデータを収集した。 【結果】 対象症例は244例あり,そのうち見逃しは2例であった。2例に共通した項目は症状(頭痛なし,頸部痛/嘔気・嘔吐あり),GCS 15点,夜勤帯,救急医の介入なし,出血が後頭蓋窩に限局の5つが挙げられた。上記項目のうち,出血が後頭蓋窩に限局している症例の見逃し率が33%と最も高かった。 【結語】 後頭蓋窩に出血が限局しているくも膜下出血は見逃しが生じやすい可能性がある。
要旨 【背景】 蝶形骨洞炎は副鼻腔炎の中でも稀であるが,海綿静脈洞に近接しており頭蓋内への感染波及を来しやすい。 Fusobacterium necrophorum ( F. necrophorum )は嫌気性グラム陰性桿菌で,侵襲性が高く,Lemierre症候群など敗血症性血栓症を介して遠隔臓器膿瘍を形成することが知られている。今回,蝶形骨洞炎を契機に同菌による髄膜炎,硬膜下膿瘍,両側腸腰筋膿瘍を併発し,外転神経麻痺の出現を契機に外科的介入を行った1例を経験した。 【症例】 22歳の男性。発熱と頭痛を主訴に来院し,頭部CTで右蝶形骨洞および上顎洞に陰影を認めた。髄液検査で細菌性髄膜炎が疑われ,抗菌薬治療を開始した。硬膜下膿瘍も認めたが当初は保存的加療とした。その後,外転神経麻痺が出現し膿瘍増悪を認め,耳鼻咽喉科で副鼻腔開放術を施行した。血液培養から F. necrophorum を認めた。経過中,脳外科により開頭膿瘍摘出術,放射線科により両側腸腰筋膿瘍ドレナージを施行し,感染と神経症状の改善を得た。 【結語】 蝶形骨洞炎に伴う F. necrophorum 感染は,頭蓋内および全身播種を来す危険がある。神経症状や遠隔膿瘍を認めた場合には,耳鼻咽喉科・脳外科・放射線科が連携し,早期に段階的外科的介入を行うことが転帰改善に重要である。
要旨 【目的】 メディカルラリーはチーム医療や多職種連携を体験的に学ぶシミュレーション教育である。本研究では,メディカルラリー参加前後でのアンケートを通じて,医療系学生における救急医療への興味や多職種連携への理解に及ぼす教育的効果を検証した。 【方法】 参加学生110名のうち,事前・事後アンケートに回答した45名を対象とした。アンケートでは,「救急医療への興味」,「他職種の役割や知識・技術の理解」,「他職種との連携の必要性」を5段階リッカート尺度で調査し,参加前後の変化を評価した。 【結果】 「他職種の役割や知識・技術の理解」では,肯定的回答が34%から51%に増加し,否定的回答は42%から7%に減少した。一方,「救急医療への興味」および「多職種連携の必要性」については,有意な変化を認めなかった。 【結語】 メディカルラリーは,多職種連携の理解を深める有効な教育手法であることが示唆された。一方で,救急医療に対する興味の変化は限定的であり,その教育効果をより正確に評価するためには,対象層や募集方法を考慮した検討が必要である。
要旨 【背景】 Toxic shock syndrome(TSS)や電撃性紫斑病は早期診断と治療開始が求められる。しかし,両疾患を合併した報告は少なく,合併例ではTSSに特徴的な皮膚所見である,びまん性斑状紅皮症を呈さないことがある。循環動態の改善に伴い皮膚所見が変化し,電撃性紫斑病にTSSを合併していることが明らかになった症例を経験したので報告する。 【症例】 生来健康な14歳男子。発熱で前医を受診し,敗血症性ショックとして治療が開始された。ショック状態が遷延し,左室駆出率の低下や高カリウム血症の遷延から,心停止へ移行するリスクが高いと判断された。V–A ECMOが導入され,当院転院となった。V–A ECMOは管理5日目に離脱した。血液培養からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌が分離された。当初,全身に強い紫斑のみを認めたが,全身状態の改善とともに,びまん性斑状紅皮症が確認され,TSSと電撃性紫斑病の合併症例と診断した。両膝下離断術は要したが経過良好で,発症127日目にリハビリテーション目的に転院した。 【結語】 電撃性紫斑病を診た際には皮膚所見の変化に注意し,TSSの合併も考慮する必要がある。
要旨 【背景】 A群β溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus: GAS)による髄膜炎は稀だが,重篤な疾患である。 【症例】 妊娠28週の30歳代の女性が頭痛と発熱を主訴に搬送された。髄液検査で多形核球優位の細胞数増多を認め,血液および髄液培養からGASが検出された。敗血症性ショックを伴い,母体救命を最優先として緊急帝王切開術を行い,ampicillinを21日間投与し,第22病日に退院したが,第24病日に意識障害,右上下肢麻痺,失語が出現し再入院した。頭部造影MRIで硬膜下膿瘍と診断し,ampicillinを30日間,続いてmoxifloxacin内服を28日間行い,合計79日間の抗菌薬治療で軽快した。 【結語】 妊婦に発症したGAS髄膜炎に硬膜下膿瘍を合併した稀な症例を経験した。症状改善後であっても頭蓋内合併症の精査を行い,治療期間を慎重に決定する必要がある。また,母体救命を最優先とした早期診断と治療により母児とも良好な転帰が得られた。