
本研究は,わが国の港湾における地域活性化に向けた取り組みとして,「みなとオアシス」制度において港湾の既存ストックである港湾倉庫を有効活用する「倉庫リノベーション」に着目し,その普及・促進方策を提示することを目的としている.本稿では,「みなとオアシス」登録82港を対象に,「みなとオアシス」登録範囲に着目し,港湾および背後の市街地のエリア構成との関係を捉えるとともに,その中で倉庫転用がみられた事例を取り上げ,リノベーション倉庫の活用実態を明らかにすることで,「みなとまち」活性化に向けたリノベーション倉庫の活用方策を提示した.
国あるいは地域の概況や経済構造を定量的に把握することは,地域の経済の課題把握や,社会資本整備などの様々な施策を考える上で極めて重要である.我が国の基幹統計の1つである産業連関表は,産業間の取引活動を把握することができ,国あるいは地域の経済構造を詳細に捉えるのみならず,空間的応用一般均衡モデルなどの基準データとしても活用されている.一方,産業連関表の中の運輸部門に着目した場合,その定義は実際の交通産業よりも広範であること,またヒトの移動(人流)に伴う取引活動が明示的に扱われていないことが指摘できる.本稿では,産業連関表における運輸部門の取り扱いについてレビューするとともに,物流での明示方法を参考に,旅客の産業連関表への整合的な取り扱い方法を提案する.
今後普及が見込まれるパーソナルモビリティツールの CO2排出量に関する調査研究が行われていないことから,導入に伴う CO2排出量変化を他モードへの影響も加味して推計する手法を構築した.超小型モビリティ・電動キックボードを対象とし,さらに自転車も含め CO2排出原単位をLCA(Life Cycle Assessment)に基づき推計した.これを利用した推計の結果,例えば乗用車から公共交通(鉄道・バス)+パーソナルモビリティツールへ転換した際,乗用車の乗車人数が 2 人以下の場合に CO2排出量が減少するなど,パーソナルモビリティツール導入が CO2削減につながる条件を明らかにすることができた.
近年,我が国の物流産業では,少子高齢化に伴う労働人口の減少により人手不足が深刻化している.今後,物流網を安定的に維持・発展させていくためには,新技術の導入等を通じて労働生産性を向上させていく必要がある.現在,物流産業においては様々な新技術の導入が検討されているが,中でも注目されているのがダブル連結トラックや隊列走行といった長大車である.しかし,長大車は車長が極めて長く,事故リスクが高いと考えられる.高速道路合流箇所は事故の発生確率が従来から高く,長大車導入上の隘路となっている.本研究では強化学習を用いて高速道路合流箇所における合流シミュレーションモデルを構築し,長大車の導入が高速道路合流箇所の安全性に与える影響について定量的かつ多角的に分析を行った.
本研究は,交通事故リスク情報を提供することによる交通事故リスクに関する認知・理解の変化や低事故リスク経路を利用する行動変容を把握することを目的とする.このために,交通事故リスク情報を活用したコミュニケーション実験を複数回実施し,コミュニケーションが交通事故リスクの認知・理解に与える変化や低事故リスク経路選択行動に与える影響を分析した.分析の結果,コミュニケーションによって「一般道路と高速道路の交通事故リスクの関係」を正しく知覚する被験者が増加し,低事故リスク経路を利用しようと思う被験者が増加することがわかった.また,事故リスク情報提供に伴う経路選択モデル分析の結果,交通事故リスク情報を活用したコミュニケーションが経路選択に影響を与えることを明らかにした.
全国都市交通特性調査(全国PT調査)は,都市交通の特性を全国横断的かつ経年的に把握可能な貴重なデータであり,その精度を確認することは大切である.本研究は,活動場所の情報が利用可能な時間利用調査である2001-2016年社会生活基本調査の調査票Bの結果を用いて同時期の全国PT調査の結果を比較検証する.調査票Bのデータからトリップ数を推定する方法を構築し,非外出率,時間帯別個人不在率,トリップ原単位の視点で比較する.トリップ原単位の両調査の差は,平日で0.70-0.82,休日で0.85-1.19トリップとなった.また,全国PT調査において特に休日の私事・帰宅トリップの記入漏れが多く,20-39歳の若者世代で記入漏れが増加していることが示唆された.
高齢者の身体機能維持による健康寿命延伸が目指される中,人々の外出行動に関しても「高齢化」から更に踏み込んだ「外出に関する身体的な困難さ」を切り口とした実態把握が必要である.そこで本研究では第6回東京パーソントリップ調査に基づいて,身体的な困難さの水準による外出の有無・外出内容の実態比較を行った.その結果身体的な困難さの上昇に伴い,外出率の低下,自動車利用への依存,移動目的の単調化,移動時間の短時間化等が生じている実態が明らかとなった.なお,身体的な困難さを有する将来人口が2040年までに大幅に増加するという概算値の算出を通じ,これらの問題は今後より深刻化すると考えられる一方で,健康寿命の延伸が実現すれば事態の悪化を緩和できる可能性も示された.
本研究では,補修費用と利用者費用を同時に考慮し,高速道路ネットワークの舗装の補修施策を決定する問題を考える.複数のリンクによって構成された道路ネットワークでは組み合わせ爆発により補修施策の導出及び結果の解釈と実用化が困難である.それに対して本研究は,グルーピングと集計化に基づく近似的解法を提案する.リンクのグルーピングを行い,グループごとに劣化状態の集計化を行うことで,組み合わせ爆発を回避しつつ,実務者にも理解されやすい補修施策の導出を可能にする.また,ネットワークの構造に基づいたグルーピングを行うことで,構造に依存し得る補修費用と利用者費用を考慮した補修施策の導出を可能にする.数値計算事例では,提案する解法による施策が,既存の施策と比較して補修費用と利用者費用を同時に削減できることを示す.
非日常目的を含む都市間交通需要は大きく季節変動する.都市間鉄道の運行に必要な施設,車両,人員などの資産は季節調整が難しく,繁忙期に合わせて資産を用意すると閑散期に遊休が発生して資産の効率が低下する一方,閑散期に合わせれば繁忙期に十分な量のサービスが提供されないという問題が発生する.本研究では,最適化モデルを用いてこの問題の回避策を定量的に分析する方法を提案する.先行研究の消費者余剰最大化モデルを複数の季節を考慮できるように拡張し,ネットワーク内の運行量,運賃を季節固有の変数として扱う.車両の季節間融通と運賃の季節別設定の組み合わせのもとで,これらの変数の同時最適化を行い,総消費者余剰とそれに影響するいくつかの指標値を比較して,遊休問題回避策の効果を評価する.
中心市街地等において快適な歩行空間を形成し賑わいを創出する重要性が認識され,様々な歩行促進施策が展開される中,その施策を評価する指標として歩行者交通量が多く採用されている.地下街を有する市街地において歩行経路のスケールで歩行流動を把握する場合,Wi-Fiパケットセンサーが簡便さや費用等の面で最も有利であると考えられる.そこで本研究は地下街を有する西武新宿駅周辺において同センサーによる歩行観測を行い,統計値との比較や天候・曜日の違い等による経路選択等の差異に関する分析を行った.その結果,MACアドレスのランダム化が進展する2021年3月時点においても,都市内の歩行者の移動特性と同センサーから取得した歩行流動データの傾向に一定の一致が見られ,その有用性が確認された.
車依存や感染症の蔓延により歩行ニーズが高まり,Walkableな街路空間整備が進められている.この整備は,商業地でより進んでおり,活動範囲が広い余暇活動では歩行機会がより多いと考えられる.しかし,現状の余暇活動は主に施設内に限られており,特に車依存都市では施設周辺の回遊は少ない.そこで本研究では,街路空間動画の評価によって,余暇施設周辺の街路空間デザインが歩行・滞留意欲に与える影響を明らかにする.まず,様々な余暇施設周辺の360度動画を基に,余暇空間の特徴を整理する.そして,これらの空間動画の評価をオンラインアンケートで実施し,空間が行動意欲に与える影響を分析する.この結果,余暇歩行空間の動画評価では,歩行・滞留意欲は快適性に最も関係し,この関係は余暇経験が多いとより大きいことが示された.
駐車場整備計画は駐車場法第四条に基づく法定計画であり,各自治体の駐車場整備の基本方針や整備の目標量等を定める重要な計画である.整備目標量の設定においては,将来駐車需要の予測が必要になることが想定されるが,その手法については定式化されたものが示されていない.また近年の附置義務駐車場増加により駐車供給量が需要量を超過していることが多い状況を鑑みると,駐車場整備量決定のためには必ずしも将来需要予測が必要でない可能性も指摘できる.本研究では,インターネット上に公表されている駐車場整備計画を収集し,その将来駐車需要予測に関する記述を調査することによりそれらの手法を類型化し,将来駐車需要の予測結果に関する傾向把握を行うことで,今後の駐車場整備計画策定の実務を行う上で有用な視点を提供することを目的とする.
本研究は,高速道路サグ・トンネル部における Capacity Drop (CD) 現象を内生的に記述する連続体交通流モデルに基づく待ち行列モデルを構築し,渋滞発生確率の特性を解析する.構築するモデルは,CD 現象の考慮に加え,到着需要のゆらぎと交通容量のゆらぎを区別して 2 段階で渋滞発生確率を記述するものである.それぞれの段階についてモンテカルロ・シミュレーションを行い,(i) CD 現象は渋滞発生確率の分布をより需要が低い範囲にシフトさせること,(ii) 渋滞発生確率の分布形状を主に決めるのは交通容量のゆらぎであること,を示す.
2020 年から2021 年にかけての日本の都市間旅行は,新型コロナウイルス感染症の影響により,大きく変化し続けた.具体的には,感染拡大防止のために自粛を求められる時期があっただけでなく,「Go To トラベル」など促進される時期もあった.この時期の各政策・情報に対する人々の行動変化の記録は,今後同様な事態に直面した際の貴重な経験であろう.そこで本研究では,この行動変化の特徴を空間的な「偏り」も含めて明らかにするために,重力モデルの考え方に基づく行動変化の時系列分析を行った.その結果,長距離ほど減少量が大きかったこと,特定の時期には人口の多い都道府県への発生・集中量の偏りが大きかったこと,このような重力モデルの係数変化で行動変化の偏りの多くを説明できること,といった行動変化の特徴を明らかにした.
MaaS (Mobility as a Service) には,異なる交通モード間で情報や料金体系を統合して利便性を上げることで,人々の外出機会の増大を促進する役割も期待されている.本研究では,MaaS 導入による人々の活動変化を評価するために,田淵・福田 (2020) を拡張し,定額料金の支払いで一定エリアの交通サービスが利用し放題になるサブスクリプションサービスを明示的に考慮した鉄道利用者の Activity-based モデルを構築した.東京都市圏を対象に,MaaS 導入による人々の活動変化予測とそのときのサブスクリプション料金水準を推計するシミュレーションを行ったところ,MaaS が寄り道を促進させる効果が一定量あることや,サブスクリプション料金への支払い意志額は女性や20歳以下の若者ほど高くなることなどが示唆された.
COVID-19 感染拡大に伴い,東京都市圏では居住地の「郊外への分散」が生じている.本研究では転居においてCOVID-19 の影響を心理的に受け,居住地選択に反映した転居者を「コロナ転居者」と定義し,そのメンタリティを独自に調査することで,転居先に求められる要素の変化を明らかにした.具体的には,特性の異なる転居先ごとにコロナ転居者とその他転居者のメンタリティを比較した.その結果,コロナ転居者の特徴として,1)駅から遠くバス利便性が高い中高層住居専用地域を選んだ場合,住居の広さや居住地の住み心地の悪さの解消を目的とし,駅や中心市街地へのアクセスを重視した傾向があること,2)市街化調整区域を選んだ場合,住居費の軽減や居住地への住み心地の悪さの解消を目的とし,3 密の回避を重視した傾向があることが明らかとなった.
道路の一地点を通過する交通量は一日の間で時間によって変動する.地点交通量の確率分布を推定することにより,路側での観測が容易な交通量データからドライバーの行動の時間変動を知ることができる可能性がある.また,交通量の時間変動のように24時間単位で繰り返されている現象に対しては,角度を扱う方向統計学を適用し,0時と24時を同一と見なして分析することが適切である.本研究では,方向統計学における確率分布である円周分布を混合した分布を用いて,高速道路の複数地点で観測された地点交通量の分布のパラメータ推定を行った.分布の推定により,交通量の時間変動を朝の出勤と夕方の帰宅の分布に分離することができた.また,朝の分布は左に歪んだ立ち上がりの速い分布であり,後者の分布は緩やかな分布であることがわかった.
本稿は,流域全体を最適化する治水システムの知見蓄積に向け,ドイツ・バイエルン州における「洪水防御行動計画 2020 プラス」を対象に,同州の治水事業の枠組みや既往洪水を整理した上で,行動計画の 構成や内容を明らかにするものである.その大きな特徴として,4 つのサイクルによる持続性の高い洪水 対策の仕組みの構築,計画超過洪水への対策によるレジリエントな治水システムの構築を指摘した.さら に,流域全体の治水システムとして,レジリエントな治水システムへの転換,「浸水地域」制度による洪 水防御エリアの明確化,河道の復元による自然の氾濫原の創出,超過洪水用遊水池の建設による遊水機能 の強化が重要な役割を担っていることを指摘し,日本への展開可能性を考察した.
近年,台風や豪雨災害による被害が頻繁に報告されており,事前の住民避難計画の重要性は増している.本研究では地区防災計画の参照情報として有用となるような浸水災害時の最適避難計画モデルを開発する.提案モデルでは総避難時間および避難所のサービス水準の総和を最適化する線形計画問題を求解している.この最適化問題では垂直避難や民間施設への避難といった浸水災害避難特有の避難者の行動を表現することで,より現実的な避難計画立案のための手法を提供している.構築したモデルは仮想ネットワークでパフォーマンスを確認し,避難所の混雑率を考慮した避難計画が立案できること,民間施設の避難所能力による影響を分析可能であることを確認した.札幌市の道路ネットワークへの適用では計算負荷が汎用コンピュータでも十分であることを確認した.
本稿では,1989 年以降市街化区域を拡大した 11 の地方都市を対象に,市街化区域の拡大部に着目し,災害リスクとの関係を明らかにするとともに,その災害リスク区域に居住する人口・世帯の特徴について分析した.その結果,市街化区域拡大部における災害リスク区域の面積割合は低く,1989 年以前の市街化区域において既に災害リスク区域の割合が高かった都市においては,災害リスク区域を含める形で市街化区域の拡大が行われていたこと,そして市街化区域拡大部の災害リスク区域には戸建,30-50 代の子育て世帯が多く居住していることなどを明らかにした.