高齢社会の進行とともに,心不全患者は激増し,パンデミックと形容されるに至った.高齢者心不全の特徴のひとつは,拡張障害に病態の首座をもつ左室駆出率が保たれた心不全(Heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)である.残念ながら,これまでの大規模臨床試験の結果からは,HFpEFに対する有用な薬物治療は確立していない.HFpEFの病態はheterogeneousであることが推察されており,個々の症例の病態を明確にしたうえで,テーラーメイドな治療方針を立てることが望まれる.
◎各種パイロット試験,メタ解析,前臨床研究の結果からDPP-4 阻害剤の心血管保護作用に対して大きな期待が集まっていたが,2013 年夏に同時公表された2 つの無作為大規模臨床試験(SAVOR-TIMI53 試験およびEXAMINE 試験)では,約2 年という短期間の試験期間において心血管イベントに対する安全性は担保されたものの,SAVOR-TIMI53 試験における予期せぬ心不全発症という重要なイベント増加が認められた1).その一方,EXAMINE 試験2)ではこのような傾向は認められず,これらのエビデンスのみからでは糖尿病患者への使用に関する心不全管理上の安全性が不安視される傾向もあった.しかし2015 年春,あらたに発表となったTECOS 試験の結果をもって,DPP-4 阻害剤の使用は心不全発症を増加させる傾向はないと考えられる知見が得られた.今後さらなる大規模臨床研究の結果や,糖尿病が心不全発症リスクを高めるというよく知られるエビデンスを考慮し,本稿ではDPP-4 阻害剤と心不全の関係を糖尿病の観点から概説していく.