就職氷河期世代の非正規雇用や単身世帯の割合は依然として高く,この世代が高齢者となる20年後には高齢世代の孤立・困窮化がより深刻になることが予測される。こうした事態を防ぐため,問題が深刻化する前の中高年期からの予防が求められる。一方,支援の現場からは孤立・困窮に陥るリスクが高い中高年者は,公的サービスの利用や援助要請に消極的であるため介入が遅れてしまう現状が報告されている。こうした問題の解決には,心の働きを科学的に理解する心理学的視点が必要不可欠であり,他領域の専門家や現場と連携しながら社会実装を展開することが求められる。2019年にAPA(米国心理学会)が低所得層や経済的弱者層の心理支援に関するガイドラインを刊行している。しかし,国内外を含め孤立や困窮予防に向けた心理学研究は端緒についたばかりであり,これから研究と現場を結ぶことが大きな課題となる。そこで本シンポジウムでは中高年者の孤立や困窮予防に関する心理学研究や支援現場の現状と課題を紹介した上で,今後の展望や心理学の役割等を議論する。多領域の研究者や実践家も参加することで,社会の実態に即した解決策の提案を探る場としたい。
経済的困難を抱える単身中高年男性は援助要請に消極的とされる一方,その心的メカニズムは明らかではない。そこで,生活困窮経験者への面接調査(Murayamaら2021)から構築した仮説(経済的苦境が将来展望を諦める意識(将来諦め)を高め,それにより援助要請が抑制される)を検証する。方法:東京都A区の単身者50-70代から無作為抽出した4000人に郵送調査を実施(回収率46 %)。質問紙は1)経済状況(現在/幼少期),2)将来諦め:将来展望意識尺度(村山ら2021,2因子:将来諦め/将来不安),3)援助要請の抑制態度:BHSS(Wilsonら2005,2因子:自己解決/他者不信),4)援助要請(意図):GHSQ(Addisら2005),5)個人属性で構成された。結果:男女別多母集団同時分析を行ったところ,仮説通り将来展望の諦めは男性特有の援助要請の抑制因であることが示された。具体的に,男性は経済的苦境(現在)が将来諦めと他者不信を高めることを介して援助要請を抑制するパスが有意であった。一方,女性は経済的苦境(幼少期)が自己解決と他者不信を高めることを介して援助要請を抑制するパスが有意であった。
社会的孤立には健康リスクがあることが示されており,特に中高齢者では孤立死のリスクにもなり得るが,「周囲からの孤立」の認識に着目した研究は乏しい。そこで,単身中高齢者において主観的な孤立を感じやすい者の特徴を検討した。方法:東京都A区の台帳上の単身者50-70代から無作為抽出した4000名に郵送調査を実施し(有効票1829),実際は同居人がいる者や分析項目に欠損のある者を除く1290名を分析対象とした。分析項目は周囲からの主観的な孤立感尺度(1因子4項目,4-16点,点数が高いほど孤立を感じやすい)(高橋ら,2020),基本属性(性別・年代・暮らし向き等5項目),主観的健康感,精神的健康度,客観的な社会的孤立(別居親族や友人との接触頻度),外出頻度,参加グループの有無,相談相手の有無とし,主観的な孤立感を従属変数,その他を独立変数とする重回帰分析を行った。結果:暮らし向き,主観的健康感,精神的健康度が良好でない単身中高齢者は周囲からの主観的な孤立感を深めやすいことが示唆された。他方,客観指標に基づく社会的孤立や参加グループおよび相談相手の有無等との間に有意な関連はみられなかった。