膜ろ過を用いた浄水処理・下水処理において,高分子量親水性有機物であるバイオポリマー画分が膜ファウリングの発生に強く関与することが示されている.これまでに浄水処理と下水処理におけるバイオポリマーの詳細な比較は行われておらず,その違いはほとんど明らかになっていない.本研究では異なる時期に水道原水とMBR槽内水からバイオポリマーを回収・精製し,それぞれのバイオポリマー試料の膜ファウリングポテンシャルと物理・化学的特性の差異を検討した.MBR槽内水から回収したバイオポリマーの膜ファウリングポテンシャルは明らかに水道原水中バイオポリマーのそれよりも高かった.QCM分析によるバイオポリマー試料と膜材質との親和性評価結果は膜ファウリングポテンシャルの大小と非常によく一致し,膜ファウリングポテンシャルが膜材質との親和性に大きく影響されることが示された.LC-OCD/UVD/OND分析とFT-IR分析により,本研究で検討した二種類のバイオポリマーには明確な差異があることが明らかになった.MBR槽内水中バイオポリマーにはアミノ糖やリポ多糖様成分が含まれており,このことが膜ファウリングポテンシャルの上昇に関係していた可能性がある.
膜を用いた上下水処理には従来の方法と比較して様々な利点がある一方で,膜ファウリングが大きな問題となる.近年の研究において,バイオポリマーと総称される高分子量親水性有機物が膜ファウリングの発生に強く関与することが示唆されている.しかし水中バイオポリマーの組成,構造,特性については不明な点が未だに多い.本研究では水道原水,下水処理水よりバイオポリマーを回収・精製し,特定の多糖,タンパク質に対応する酵素(α-アミラーゼ,セルラーゼ,プロテアーゼ,リゾチーム)によるこれらの分解性を検討した.LC-OCDを用いることで,一般的な水質分析では検知できない酵素による分解性(バイオポリマーの低分子化)を把握することができた.水道原水より回収したバイオポリマーではα-アミラーゼとセルラーゼによる分解が卓越したのに対し,下水処理水より回収したバイオポリマーではリゾチームによる分解が卓越した.この結果は本研究で分析した2種類のバイオポリマーの構造と特性が大きく異なることを明示するものであり,これまでに得られていない知見である.本研究で確立したバイオポリマーの酵素分解性評価手法を用いて様々なバイオポリマーと酵素の組み合わせを検討することにより,これまで詳細が不明となっていたバイオポリマーの構造解明を進展させられる可能性がある.
膜を用いた浄水処理には従来の処理と比較して様々な利点がある一方で,膜ファウリングが大きな問題となる.近年の研究においてバイオポリマーと総称される高分子量親水性有機物が膜ファウリングの発生に強く関与することが示唆されている.本研究では特徴の異なる複数の原水よりバイオポリマーを回収・精製し,これらが発生させる膜ファウリングの差異について検討した.バイオポリマー濃度を統一して実施した膜ろ過試験では原水毎に膜ファウリング発生速度が明らかに異なっており,原水が異なるとバイオポリマーの特性が変化することが示された.バイオポリマー特性の差異はLC-OCDを用いた分子量分布測定,赤外スペクトル分析においても明白であり,バイオポリマーの大半が多糖類より構成される場合には不可逆的ファウリングの発生をより深刻にする可能性が示された.消散監視機能付き水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)による分析では興味深い結果が得られた.QCM-D分析において膜材質ポリマーであるPVDFとの高い親和性が示されたバイオポリマーが高い膜ファウリングポテンシャルを有していた.また,バイオポリマーの粘弾性がファウリングの可逆性を説明する可能性が示唆された.今後QCM-Dを用いた分析データを充実させていくことで,膜ファウリングが発生しにくい膜材質を適切に選定できる可能性がある.