腐蝕性食道狭窄 (corrosive stricture of the esophagus: CSE) に発生した食道癌の1例を報告した.症例は, 54歳の男性.3歳時に紙加工処理酸液を誤飲しCSEとなり頸部にて通過障害を認めていた.51年後胸部でも通過障害と嚥下困難が出現した.上部消化管造影により上胸部食道と中胸部食道 (Im) に全周性狭窄を認めた.内視鏡検査では, Im狭窄部口側に表在軽度陥凹 (0-IIc) 型食道癌を認め食道癌根治術を施行した.切除標本でIm狭窄部とその口側に0-IIc型で固有筋層にわずかに浸潤した癌が認められ, その病理学的所見は扁平上皮癌であった.術後経過良好で36病日に退院し術後12か月後健在であった.本邦報告例21例の検討では, 男性9例女性12例と女性に多く, 平均年齢は54歳であった.アカラシアに食道癌を併発した症例に比較して, CSE後併発食道癌例では, 食道狭窄後併発食道癌までの病悩期間は38年と長く, 狭窄部とその口側に接した併発食道癌の頻度は68%と高かった.
腎不全例, 腎機能正常例のβ2-microglobulin (β2-MG) の動態を検討する目的で, 血液透析患者457例, 腎移植例19例, 食道癌例16例の血中尿中β2-MG値について検討し, β2-MGの尿中排泄率, 1日尿中排泄量, 推定1日糸球体濾過量を算出し, 血液浄化のβ2-MG除去目標や腎移植による透析アミロイドーシスの治療の可能性について考察を加えた. 血液透析患者の血中β2-MG値は, 若年, 女性, 透析歴10年, 尿量減少者で高値であり, 透析器膜別では差がなかった. β2-MGの1日尿中排泄量と尿中排泄率から推定の1日β2-MG糸球体濾過量を算出すると, 腎移植例で162mg, 食道癌例で術前178mg, 術後119-241mgであった. 1日β2-MG産生量が180mgでは, 1回の血液浄化で500mg以上のβ2-MGの除去が必要で, この量の除去は間欠的血夜浄化法では不可能と思われる. 腎移植では, 血中β2-MG濃度は透析患者の1/10だが, cystic radiolucencyからみた結果では, 腎移植による透析アミロイドーシスの治療には, 有効性に問題があると思われた.
血液透析患者のMRSA感染性肺炎例にvancomycin (VCM) の経静脈的投与を行い, その薬物動態を検討した. VCM 0.5gを生食100mlに溶解し, 投与5日目までは中心静脈カテーテルより120分かけ1日1回投与し, その後は, 血液透析 (HD) 後のみシャント静脈側より60分かけて投与した. 腎不全例では, VCMは蓄積性を示し, 半減時間は19.8時間で, 腎機能正常胃癌患者 (NRPt) では5時間であった. VCMのHDによる除去率は14.3%で蛋白結合率は35%であった. 蛋白結合率は, VCMの血中濃度と逆相関 (r=-0.616) を示し, 血清アルブミン値とは相関 (r=0.557) を示した. VCM中止後NRPtでは, 5日でVCMは血中より消失したが, 腎不全例では, 47日目でも消失していなかった. VCMは, 分子量1486のグリコペプチド系抗生物質で, 腎不全例では, 0.5gを週2-3回, 60-120分かけ投与し, VCM血中濃度のモニタリングが必要である.
オステオカルシン (OC: 単位ng/ml) とintact-N specific PTH (INS-PTH: 単位pg/ml) を用い, 骨代謝指標としてOC×log (INS-PTH) を算出し, その有用性を検討した. 対象症例は, 血液透析患者79例で平均年齢46歳, 平均透析歴8.8年であった. OC×log (INS-PTH) の値により0-40未満をI型 (n=17), 40-90未満をII型 (n=23), 90-200未満をIII型 (n=19), 200以上をIV型 (n=2) とした. 骨関節症状有症率はI, IV型に高く, 血清アルカリフォスファターゼはIII型で軽度上昇, IV型で高かった. MD法総スコアはI, IV型で高く, MCIはI型で低く, ΣGS/DはI, IV型で低かった. II型は骨代謝代償, III型は骨代謝亢進, IV型は骨病変軽度進行・高骨代謝, I型は, 骨病変進行・低骨代謝の状態にあると思われた. 骨症の進展は, II→III→IV or I型と進行し, IV→I型の進行が長期透析例で増加するものと考えている. 以上よりOC×log (INS-PTH) は, 腎性骨症の骨代謝指標として有用と思われた.
腎移植患者30例 (年齢35.6±7.5歳, 透析期間2.8±1.6年, 腎移植期間5.9±4.2年) と血液透析患者79例 (年齢46.7±10.5歳, 透析期間8.8±4.7年) とを, 症状や骨代謝指標について比較検討した. 骨関節症状は, 透析患者で62%であったが, 移植患者では6.6%と低率であった. 移植患者の血清クレアチニン値は1.6±0.6mg/dlで, 骨代謝は透析群に比し移植群で血清Caが高く, 無機リン, β2-microglobulin (β2-MG), アルミニウム, C-PTH, N-PTH, アルカリフォスファターゼは低かった. 移植群のオステオカルシン値は15.3±20.1ng/mlで, 透析群の約1/4であったが, 正常値上限の約3倍であった. MD法のMCIスコア, ΣGS/Dスコア, 総スコアでは, 透析群と移植群に差はなかった. 手根骨のcystic radiolucencyは移植群の24%に認められた.移植腎機能の改善とともに骨代謝も改善するが, オステオカルシンが高値であり骨代謝回転は正常化しておらず, MD法各スコアも高く骨病変の改善は認められなかった. 腎移植による骨代謝改善は数年を要するものと思われた.
急性肝不全 (AHF) に対する血漿交換 (PE) の効果と限界について検討した. 1975年9月から1987年2月までに当科でAHFで血液浄化法を施行した44例をPE中心治療群26例と血液吸着 (HA) 治療群18例に分け検討した.救命率はそれぞれ27%, 22%と両群に差がなく, 剖検時肝重量にも差を認めなかった. PE施行平均回数は, 死亡例で救命例の2倍であった. PE前後でビリルビン, 胆汁酸は除去され, アンチトロンビンIII, C4は補充されるが正常値まで改善しなかった. PEはAHF治療に対し延命効果があるが, 除去, 補充療法としては不十分であった. PE施行例の中に長期間覚醒後肝不全で死亡した4例を経験した. その剖検時肝病理組織像はimpaired regeneration syndrome (IRS) に類似していた. AHFのIRS類似例の肝再生不良像に注目し, 肝再生を促す人工補助肝の開発が必要と思われた.
1966年9月より1989年6月まで当施設で慢性維持透析患者の併存病変に対して施行した緊急手術72例, 待期手術164例について比較検討した. 手術死亡率は, 緊急手術で22%, 待期手術で0.6%であり, 術後合併症も緊急手術で多かった. 最近, 糖尿病性腎症例の緊急手術例を3例経験したが, 全例に術前合併症を認め, 術後合併症も心不全や感染症を全例に認めた. 糖尿病性腎症緊急手術例では, 特に水分管理と院内感染予防が重要である. 低分子ヘパリンを用いた術後初回透析で凝固時間の延長と後出血を認めず十分に施行できた. 術後透析および術直前透析では, 低分子ヘパリンやnafamostat mesilateを用いた透析か, EVA膜少ヘパリン透析が有用である. 汎発性腹膜炎等では手術にて感染および壊死巣を除去し, その後透析を行い, 上部消化管穿孔等では, 前日透析してあれば即手術を, 前々日の透析であれば透析後に手術をするのがよいと考えている.
帝王切開後4年5か月経過した現在, 母子ともに健在な血液透析患者の妊娠出産例を経験したので報告する.症例は33歳女性, 原疾患は慢性糸球体腎炎で透析歴は5年であった. 腹部膨隆を自覚し産科を受診したところ妊娠14週と診断された. 33週で帝王切開にて出産し, 新生児は体重1584gでApgar scoreは7であり, 乳児発育に異常は認められなかった.本邦における慢性腎不全患者の出産例は1986年までに15例の報告があり, 本症例は第8例目であった. 合併症として早産, 弛緩出血, 肝障害および羊水過多が多く, 早産防止には羊水過多の管理が重要である.
1969年から1976年6月まで千葉大学第2外科および千葉社会保険病院で血液透析に導入した症例は, 128例であり, 10年, 15年, 17年生存率は, それぞれ50%, 42%, 25%であった. 10年生存後死亡例は9例で, その死因は, 脳血管障害5例, K中毒・頓死2例, 心筋硬塞および骨折後敗血症各1例であった. 48例について社会復帰および骨関節症状のアンケート調査を行い, 腎性骨異栄養症 (ROD) のパラメーターについて検討した. 男性36例, 女性12例で平均47.4歳であり, 慢性糸球体腎炎41例, 嚢胞腎3例, 他4例であった. 社会復帰状況は, 完全54%, 部分10%, 主婦19%, 余生4%で, 社会復帰率は87%であった. 社会復帰阻害要因として, 骨関節症状および手根管症候群が最大であった.骨筋系を中心とした症状では, 運動痛42%, 自発痛23%, 筋力低下67%, 手根管症候群 (CTS) 19%, 病的骨折2%であった. β2マイクログロブリン (β2 M) と透析歴には負の相関を認めたが, CTSの発症とβ2M値には相関がなかった. 透析歴とMD法のscoreおよびオステオカルシン (OC) は正の相関を示し, 透析歴とMClおよびΣGS/Dは負の相関を示した. 透析歴とPTH, 血清Al-Pおよび血清Al値には相関が認められなかった. Al剤投与例では, 非投与例に比し有意に血清Al値が高値を示した. 腎性上皮小体機能亢進症にて1例に上皮小体全摘兼自家移植術を施行した. N-PTHが350pg/ml以上の症例は6例あったが, このうち骨関節症状を示した症例は3例で, いずれも保存的治療が有効であった.10年以上透析例の骨パラメーターとして, MD法およびOCが有用と思われた. これらのパラメーターを中心にfollowし, RODに対する早期かつ保存的治療が望まれる.
ICG Rmaxが,肝細胞機能予備力を反映しうるか否かにつき,肝切除術前にICG Rmaxを測定しえた肝硬変例39例,非硬変例24例,計63例を対象とし,肝切除術後合併症発生との関連において,retrospectiveに検討した.硬変合併肝癌に対する一区域内肝切除症例において,術後合併症発生群は,非発生群に比し,ICG K値では,ほぼ同様であったのに対し,ICG Rmax値では有意に低値であった.また,非硬変例においては,高齢になるにしたがい,ICG Rmax値はICG K値に比べ,より低下する傾向がみられ,それらに術後合併症が,多くみられた.以上のごとく,ICG K値に比し,ICG Rmax値が解離し,しかも,低値を示す症例に,術後合併症が多くみられたことは,ICG Rmax値はICG K値では表現しえない肝細胞機能予備力を反映しうる可能性を示唆している.
千葉大学第2外科および千葉社会保険病院にて, 1966年12月から1985年6月までに慢性透析患者の併存病変に対する外科手術例を137例経験した.予定手術74例に直死例はないが, 緊急手術63例中16例が直死例であり, 直死率は, 緊急手術群において有意に高かった. 緊急手術群では術前管理が不十分であり, 重症感染症を有する症例が多かった. 感染に対する自己防御機構の検討では, 慢性透析患者は消化器手術患者に比し, 細胞性免疫能の低下, 細網内皮系貪食能の低下および補体系の低下を認めた. 透析患者はimmunocompromised hostであり, 手術に際し自己防御機構の賦活を念頭に置く必要がある.緊急手術対策として, 術前にEVAL膜を用いた少ヘパリン重曹透析が必要であり, 同時に輸血を行い, ヘマトクリットおよび血清蛋白値を補正する. 術後には, γグロブリン製剤やopsonic proteinを含む新鮮凍結血漿を投与し自己防御機構の賦活に努める.予定手術に対しては, 血液浄化法, glucose insulin療法を組み合わせたperioperative managementおよび術前の, biological response modifierであるOK-432投与による免疫賦活療法を施行し, 術後合併症とりわけ感染症の予防に努める.一方. 透析患者の増加と高齢化により, 我々の施設でも, followしえた519例中20例 (3.2%) に悪性腫瘍の発生を認めた. 悪性腫瘍を早期発見するために, 患者愁訴を中心にX線, 内視鏡および超音波診断を組み合わせる等の努力が望まれる. 我々は, 胃癌5例をはじめ, 舌癌, 食道癌, 肝細胞癌, 胆嚢結腸重複癌, 直腸癌それぞれ1例, 合計10例の消化器癌症例に, 致命的合併症もなく根治術を施行しえた. 我々は透析患者であるために手術適応を失うことはないと確信している. しかし, 抗腫瘍剤の投与方法および手術による根治性の追求については, 慢性腎不全そのものによる予後も考慮に入れる必要があり, 今後の問題であると考えている.
癌 根 治手術 に おい ては,開 胸 術 が必要 で あ り,必 然 的 に手術 侵襲 も大 き くな る.し か し呼 吸管理,栄 養管 理 をは じめ とす る術前,術 後管 理,麻 酔 を は じめ とす る 術 中管 理 の進歩 に よ り,従 来 は手 術適 応外 で あ った よ うな,心,肺,肝,腎 な どに併存 病変 を有 す る患者, ない しは これ ら臓 器 の機 能不 全 を と もな う患者 に対 し て も,積 極 的 に食道 癌根 治術 が施 行 され る よ うにな っ て きつつ あ る.一 方 これ ら併 存病 変 ない し機能 低下 臓 器 を有 す る患者 の術 前,術 中,術 後管 理 につ いて は, おの ず か ら特別 な配 慮 が必要 で あ る.今 回 われ われ は, かか る食道 癌患 者 の うち,と くに腎機 能障 害 を有す る 症 例 に対す る食 道癌 手術 につ き,術 前,術 中,術 後 管 理 を 中心 に検討 を加 えたの で報告 す る. II.症 例 お よび腎機 能評 価 法 対 象症例 は表1に 示す ご とく,1978年6月 よ り,1983 年5月 までの5年 間に,千 葉 大学 医学 部第2外 科 へ入 表1対 象 症例.千 葉大 第2外 科(1978.6~1983. 5)
我々はラットを用い,60分間の肝虚血の後ATP-MgCl2を投与すると生存率及び各種肝機能が改善される事を発表して来た.本研究は肝虚血及びそれに対するATP-MgCl2投与が肝細胞微細構造にいかなる影響を与えるかを電子顕微鏡を用い検討したものである.電顕用標本は60分の虚血終了時,虚血60分後及び20時間後にglutaraldehyde-paraformaldehydeを用いin vivo perfusion法にてラット全体を固定後採取した.虚血終了時及びATP-MgCl2非投与群の肝細胞はmitochondriaの膨化,空胞形成,cristaeの消失,endoplasmic reticulumの不整,Disse腔の拡大等の高度の変化を示すが,ATP-MgCl2投与群に於ける変化は,虚血60分及び20時間後に於て,非投与群と比較して明らかに軽微であり,特に20時間後の肝細胞はほぼ正常に近い.以上の結果より肝虚血により肝細胞微細構造も大きなダメージを受ける事,さらにATP-MgCl2投与群に於けるダメージからの回復は非投与群に於けるよりも明らかに速かであるとの結論を得た.