超高齢社会である本邦において難聴は65歳以上の3割が罹患する国民病である. 未曾有の高齢化に加え, ヘッドフォン難聴の増加が懸念されており1), コロナ禍がもたらした急速なデジタル化の進展もあって内耳性難聴はますます増加すると予想される. 難聴は QOL を損ねるのみならず認知症発症のリスク因子でもあり2)3), 世界で難聴により失うコストは毎年75兆円と試算されている. これほどまでに社会的損失が大きく, 規模も大きな重要な症候であるのに, 感音難聴, 特に慢性感音難聴に関しては原因治療の選択肢に乏しい. この理由の一つは, 内耳は生検が困難な小さな臓器で病態研究がなかなか進展せず, 細胞レベルでの治療標的の同定が難しいことにある.
感音難聴に対する治療法の開発は, 診断学の向上に比べて進捗が乏しい. その一つの原因は生検による患者内耳細胞の直接の観察が解剖学的に困難なことにある. これまでに代替手法として細胞株やモデル動物を用いた研究が展開され, 有用な情報をもたらしてきたものの, いまなお未解明な科学的課題も多数残されている.