原発性免疫不全症は,自然免疫系あるいは獲得免疫系に関与する分子の異常により発症する免疫異常症でその多くは遺伝疾患である.今までに250以上の責任遺伝子が同定され,9つのカテゴリーに分類されている.免疫不全症ではいわゆる易感染性の他に,自己免疫疾患や悪性腫瘍を合併するもの,自己免疫や炎症を主体とするもの,特定の微生物に脆弱性を示すもの,など多彩な疾患群が含まれ,その解析から様々な疾患の分子基盤が明らかになることが期待されている. 近年は,遺伝子解析技術の進歩と低価格化,基盤遺伝情報の充実などから,毎年10前後の新しい責任遺伝子が明らかになっている.特に両親や同胞を含めた全エキソン解析からはPGM3,TWEAK,MALT1などの異常による新しい免疫不全症が次々と報告されている.さらに今まで知られていた表現型と異なる既知遺伝子異常症(例えばEBVリンパ増殖症候群を呈するCORO1A異常症)なども報告されている.また体細胞モザイクの高精度検出により,モザイクによる自己炎症性疾患なども容易に同定されるようになっている. 一方,複数以上の責任遺伝子変異が検出されたり,機能未知の遺伝子変異が捕まったりすることも稀ではなく,遺伝子解析から機能解析,機能検証につなげる方策について工夫・技術革新が必要である.ここでは私たちの実際の解析データを示しながら,原発性免疫不全症の遺伝子解析・遺伝子探索の現況と将来像について議論を進めたい.
和【はじめに】PIK3CDはphosphatidylinositol 3-kinaseのp110δサブユニットをコードする遺伝子であり,2013年に本遺伝子の機能獲得型変異による抗体産生不全症がActivated PI3K-δ syndrome(APDS)として報告された.【目的】APDS患者の臨床的,免疫学的特徴を明らかにする.【方法】10-color flow cytometryによるリンパ球亜群解析およびT cell receptor excision circles(TRECs),signal joint Ig kappa chain recombination excision circles(KRECs)の定量により免疫学的な評価を行った.【結果】低γグロブリン血症患者175例の中からPIK3CD機能獲得型変異(E1021K)を持つ患者を11例(6.3%)同定した.臨床症状は反復性気道感染症が最多で,次いでリンパ組織増殖症の頻度が高かった.その他に,気管支拡張症,日和見感染症,軽度の発達遅滞などを認めた.リンパ球亜群解析では,regulatory T cell,follicular helper T cell,transitional B cell,およびplasmablastの増加を認めた.一方,CD4+T cell,naive T cell,およびmemory B cellは減少していた.ほとんどの患者ではTRECsは検出感度以下であり,KRECsは正常であった.【結論】臨床的な特徴と免疫学的解析を組み合わせることで,抗体産生不全症患者の中からAPDS患者を同定できる可能性が示唆された.要旨
敗血症は病原体によって引き起こされた全身性炎症反応症候群(SIRS)であり,細菌感染症の全身に波及したもので非常に重篤な状態である.細菌やウイルスなどの感染病原体の初期認識やその後の炎症反応の惹起などの生体防御メカニズムである自然免疫系では,敗血症発症時何らかの免疫機構の異常が起こっていることが考えられる.自然免疫系において最前線で重要な役割を担っている好中球においても感染局所への浸潤や活性酸素種の産生による殺菌などにより感染に対する炎症反応を制御しているが,そのバランスが崩れている可能性がある.我々は治療介入のされていない敗血症患者の末梢血を用いて,好中球に焦点をあてその免疫機構に関連する指標に関して健常者の好中球と同時に解析し,重症度との関連性を検討した.表面抗原としては,好中球の遊走を制御する因子とされるCXCR2,PILRalpha,活性酸素産生の指標とされるFlavocytochrome b558を解析した結果,患者好中球の遊走能・活性酸素産生能に明らかに健常者との差が認められた.刺激物質による活性酸素種の測定でも患者好中球がプライミング状態であり活性酸素産生能が高まっていることも確認された.敗血症発症時に抑制されていると報告されているアポトーシスはAnnexinVにより観察した.これらの解析結果と臨床データとを総合的に解析した結果を報告する.
【目的】造血幹細胞移植の生存率は向上しているが,移植後の日和見感染症は未だに大きな問題である.特にウイルス感染では抗ウイルス薬の副作用,有効な抗ウイルス薬の欠如などの問題がある.ウイルス特異的T細胞は,治療困難例に対して期待されている.ベイラー医科大学のLeenらは,オーバーラッピングペプチド(OLP)とサイトカイン(IL-4/IL-7)を用いて簡便に,またドナーのHLAに関わらずウイルス特異的T細胞を増幅できると報告した.私たちは対応ウイルスと培養法を改変し,特異的T細胞の増幅を試みた.【方法】7ウイルス15抗原:CMV(pp65, IE1),EBV(EBNA1, BZLF1, LMP2),ADV(Hexon, Penton),BKV(LT, VP1),JCV(LT, VP1),HHV6(U54, U90),VZV(IE62, IE63)のOLPにより末梢血単核球を刺激し,無血清培地(IL-4/IL-7添加)にて培養した.作成した細胞の表面抗原分析を行い,特異性はIFNγ産生能と細胞傷害活性測定にて検証した.【結果と考案】9-14日でT細胞が増幅され,全ての抗原に対する特異的T細胞が得られた.培養されたT細胞はドナーにより異なるがCD4T細胞優位であり,central memoryが主体であった.IFNγ産生能を示す特異的T細胞は有意に増幅した.CD4T細胞優位ではあったが,ドナーやウイルスによっては良好な細胞傷害性を示した.現在は得られた細胞のHLA拘束性について検証を進め,また造血細胞移植後日和見感染症に対するウイルス特異的T細胞治療の臨床試験を準備しているところである.
免疫担当細胞の中で好中球は末梢血中で最も数が多く,また最も寿命の短い細胞群である.様々な受容体を発現すると共に,刺激に適切に反応し殺菌に関与し,炎症を終焉に向かわせる.また免疫調節に働く作用も有する.近年,様々な炎症性疾患における好中球の役割に注目が集まっている. PAPA症候群はPSTPIP1の変異による自己炎症性疾患である.PSTPIP1変異は壊疽性膿皮症においても観察されている.PAPA症候群患者の多くでは無菌性関節炎や嚢腫性ざ瘡,無菌性膿瘍,壊疽性膿皮症がみられ,また様々な臓器障害をきたすが,どの免疫細胞にどのような異常があるかはわかっていなかった. 私達はPAPA症候群患者にみられる無菌性関節炎や無菌性膿瘍において好中球が多く浸潤していることに着目し,その機能解析に着手した. まずPAPA症候群患者の好中球を用いてそのapoptosisや活性酸素産生を測定したところ,apoptosisの亢進や活性酸素産生の増加が観察された.PSTPIP1変異とこれらの好中球機能亢進との関係は未知であることからまず,in vitroでの病態の再現を目的として,患者と同様の変異を有するPSTPIP1組換えタンパクの健常人好中球への発現を試みている.現在までのところ,私達が今まで検討してきた方法を利用して(Nature Immunol,2012)効率良く好中球へのタンパク発現に成功している. 本学会ではPSTPIP1変異による好中球機能異常の病態解析結果につき,詳細に紹介したい.
高IgE症候群は黄色ブドウ球菌を中心とする細胞外寄生細菌による皮膚膿瘍と肺炎,新生児期から発症するアトピー性皮膚炎,血清IgEの高値を主徴とする免疫不全症である.そのうち,1型高IgE症候群はSTAT3分子のdominant negative変異に起因し,特有の顔貌,脊椎の側弯,病的骨折,骨粗鬆症,関節の過伸展,乳歯の脱落遅延などの骨・軟部組織・歯牙の異常を合併する.今回,我々は当院で診断された1型高IgE症候群9例における臨床症状,検査所見,遺伝子解析についての検討を行った.また,multi color flowcytometryによる末梢血リンパ球解析ならびにT細胞・B細胞の新生能を反映するTRECs (T cell receptor excision circles)およびKRECs (kappa-deleting recombination excision circles)の定量などの免疫学的解析を行ったので併せて報告する.
原発性免疫不全症候群(Primary immunodeficiency : PID)は自然免疫系あるいは獲得免疫系に関与する分子の異常によって発症する免疫異常症である.その主たる症状は「易感染性」であり,典型的には患者は,幼小児期より,反復感染症,重症感染症や日和見感染症などに罹患する.一方,PIDは「易感染性」のみを示すのではなく,自己免疫疾患,血球減少,悪性腫瘍が主たる問題となる疾患もある.多彩な疾患群を含んでおり,現在のところ200前後の疾患があり,240以上の責任遺伝子が明らかになっている.PIDはexperiment of natureと呼称され,その解析により例えば,BTK,CD154(CD40L),CD278(ICOS),STAT1,STAT3など様々な分子の,ヒトにおける機能や重要性が明らかになり,問題となる免疫担当細胞の免疫系における役割が解明されてきた.PIDの解析は従って,ヒト免疫の分子的背景の理解と,治療法の開発に向けて有用な情報を提供していると言える.以前から知られていた分子異常においても,その分子の新たな機能が次々と明らかになっている状況である.ここではその中からいくつかの重要な研究を取り上げ,PID研究のヒト免疫研究における役割と,今後の研究の展望について紹介したい.
近年,原発性免疫不全症の予後は改善し成人例も増加しており,2008年の疫学調査では成人例(20歳以上)は263名(28.4%)が報告された.これまで成人例に関する報告はわずかしかなく,疫学調査結果より成人例の追加解析を行い,特に成人例の多いX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)と分類不能型免疫不全症(CVID)を中心に解析した.成人と小児例を比較すると,XLAでは成人例で気管支拡張症・難聴の合併が多くみられたが,CVIDでは悪性疾患,自己免疫疾患,気管支拡張症などの重篤な合併症の差はみられなかった.一方CVIDでは15歳未満での発症例が重篤な合併症を持つ傾向にあったが,15歳未満発症例では罹病期間が長く,合併症との関連が示唆された.QOLや予後にかかわる気管支拡張症はXLA(11/133例)と比べCVID(20/92例)で合併が多く(p=0.0038),罹患率は高率であった(CVID:0.016/年,XLA:0.007/年).CVIDではXLAと比べ診断から気管支拡張症発症までの期間が短く(p=0.04),抗体不全以外の免疫異常や診断の遅れが背景にあると考えられた.
平成20年度に行った原発性免疫不全症候群全国疫学調査結果に関して,内分泌疾患合併例の二次調査結果をまとめた.内分泌疾患合併例は49例報告された.原発性免疫不全症患者若年人口における,各内分泌疾患の有病率は一般若年人口における有病率より極めて高率であった.自己免疫性(1型糖尿病,橋本病),非自己免疫性(橋本病以外の甲状腺機能低下症,成長ホルモン分泌不全症,性腺機能低下症)内分泌疾患のいずれにおいても一般若年人口と比較して発症頻度が高いことが判明した.IPEX症候群の1型糖尿病合併率は33.3%で,70%以上という欧米の報告よりも低かった.またXLA, CGD, IgGサブクラス欠損症で甲状腺機能低下症,高IgE症候群,CGDで成長ホルモン分泌不全症,先天性無ガンマグロブリン血症,高IgE症候群で性腺機能低下症の合併例が新規に報告された.内分泌疾患は補充療法など治療可能な疾患も多いが,治療開始時期が重要であり,見逃してはならない重要な合併症である.