要旨Dual–energy computed tomography(DECT)は2つの異なるエネルギーレベルのX線を用いる撮像装置で,様々な元素を識別できる。皮質骨や海面骨からカルシウムを識別・除去するvirtual non–calcium法を用いて,通常のCTでは診断困難な骨折に伴う骨髄浮腫や軟部組織損傷を診断できるが,本邦で救急搬送例に用いた報告は少ない。今回我々は,救急搬送された脊椎骨折3例をDECTで診断したので報告する。症例1は85歳の女性,L1の新鮮圧迫骨折,症例2は85歳の女性,自転車転倒によるL2の陳旧性骨折内の新鮮圧迫骨折,症例3は83歳の女性,自宅内での転倒によるS2の骨折で,いずれもDECTで骨髄浮腫を診断でき,MRIで確定した。高齢化社会が進むなか,救急外来におけるMRIが実施困難な骨折例への代替検査法としてDECTが一定の役割を果たすことが期待される。
要旨【目的】医療機関が消防機関からの救急患者受入れ照会を受諾できないこと(以下「受入れ不可」)の危険因子(とくに患者背景因子と照会先医療機関属性)を明らかにする。【対象】平成25,26年度神奈川県救急搬送実態調査のデータを用いた。「受入れ不可」を目的変数,「年齢」「性別」「平休日」「覚知時間帯」「傷病程度」「内外因」「背景因子」「病床数」を説明変数とし多変量解析を行った。さらに「救命救急センター指定」「一般/精神科病床の有無」で5群に分けて解析した。【結果】全体の受入れ不可率は20.6%であり(全照会数16,722回),「背景因子」のうち「精神疾患」「自殺企図」「薬物」「飲酒」「認知症」「複数科目にまたがるもの」が有意な独立危険因子であった。「救命救急センター(一般/精神科病床併設)」の受入れ不可率は10.0%で「背景因子」の影響はなかった。「非救命救急センター(一般/精神科病床併設)」の受入れ不可率は19.8%で,「精神疾患」のみが有意な独立危険因子であった。それに対し「非救命救急センター(一般病床のみ)」の受入れ不可率は23.7%で,より多くの「背景因子」(「精神疾患」「自殺企図」「薬物」「飲酒」「認知症」「複数科目にまたがるもの」)が有意な独立危険因子であった。【結語】救命救急センターまたは一般/精神科病床併設の医療機関では,患者背景因子の「受入れ不可」に対する影響は少ない。
要旨 今回,ケナコルトA®によるアナフィラキシーショック,Kounis症候群が疑われた交通事故の1例を経験した。症例は61歳の男性,交通事故で当院へ搬送された。救急隊接触時,12誘導心電図第III誘導でST上昇を認めた。来院時意識レベルJapan coma scale(以下JCS)10,収縮期血圧70mmHg(触診),冷汗・胸痛を認めた。身体所見で両下腿膨疹あり,心電図I,aVLのST上昇,V3~V6のST低下あり,胸腹部エコーで異常所見なく心エコーで左心室壁運動は保たれていた。急速輸液で収縮期血圧120mmHgまで上昇した。頭部・胸腹部造影CTで異常所見はなく,心電図変化,胸痛より急性冠動脈症候群を疑い,冠動脈造影を行ったが有意狭窄はなかった。冠動脈造影検査後,病歴を確認したところ運転前にケナコルトA®を投与され,意識消失し事故に至ったと判明した。以上から薬剤投与後のアナフィラキシーショックと診断したがKounis症候群も疑われた症例であった。診断後,ヒスタミン薬を投与し入院,2日後に膨疹は消失し,心電図も変化はなく,意識障害も改善し第4病日に退院した。アナフィラキシーと心電図変化を伴う傷病者を診察する場合は,Kounis症候群も考慮し治療に当たる必要がある。
高齢者人口の増加は日本が抱える大きな社会問題である.また日本のみならず,欧米などの先進国,中国や韓国などの多くのアジア諸国でも国民の平均年齢は上昇しており世界規模で超高齢社会に突入する.補助循環・呼吸装置の技術革新や診療レベルの向上と標準化・教育プログラムの充実により,この四半世紀で救急・集中治療医学は劇的な進化を遂げたものの,患者は高齢化の一途をたどりその長期予後や生活の質はいまだ改善していない.集中治療後症候群(Post-Intensive Care Syndrome)は,ICU 在室中・退室後の身体機能・認知機能・精神の障害で,患者家族の精神障害も含んでICU 患者の長期予後を視野に入れた新しい概念である.また高齢敗血症患者では,免疫機能や栄養状態などが障害されており長期予後に影響している.近年の目覚ましい集中治療医学の発展により急性期の救命が向上した現在,終末期を見据えながらも高齢ICU 患者のQOLの改善を目指した長期的視野に立った治療戦略が重要である.
要旨今回我々は,血液凝固機能障害により内服2日後に頭蓋内出血を来した急性サリチル酸中毒の1例を経験した。症例は27歳の女性,アセチルサリチル酸を過量内服(18.5g)して前医へ救急搬送され,サリチル酸中毒の診断で入院。意識レベルや血液検査に問題はなく翌日退院した。帰宅後より意識障害が出現したため,当院へ救急搬送となった。来院時意識レベルはJCS 30,重篤な代謝性アシドーシスと血液凝固機能障害(PT–INR 5.2)を認めた。過量内服より50時間経過していたが血中サリチル酸濃度は42mg/dLと高値であった。来院後さらに意識レベルが低下したため緊急気管挿管を行い,頭部CTを施行したところ,多発脳出血と少量のくも膜下出血を認めた。急性サリチル酸中毒の診断にて入院,緊急血液透析を施行した。血液凝固機能障害に対してはメナテトレノン(ビタミンK)40mgを静注した。第2病日にサリチル酸血中濃度は低下し,血液凝固機能障害も改善した。保存的治療にて意識レベルは徐々に改善し,第13病日に自宅退院した。本症例では外因系凝固機能に異常があり,ビタミンKの補充で改善を認めた。サリチル酸はビタミンK代謝を間接的に阻害するため,本症例のような大量過量内服の際には血液凝固機能異常が生じる可能性がある。重症のサリチル酸中毒では数日間血液凝固機能検査を行い,意識障害の遷延を認めた場合は積極的に画像診断を行う必要がある。
要旨多臓器不全を合併した十二指腸水平脚の腸管気腫,門脈ガスの見られた症例を経験した。57歳の女性。主訴,意識障害。統合失調症にて精神病院入院中に腹痛と頻回な嘔吐後意識障害を生じ当院へ転院搬送となった。来院時Glasgow coma scale E1V1M1,血圧測定不能(頸動脈のみ触知可能)であった。原因精査目的で全身のCTを行うと腹部で十二指腸水平脚中心に腸管気腫・門脈ガス像が認められた。また,急性呼吸促迫症候群,播種性血管内凝固症候群,急性腎障害,敗血症性ショックを呈していた。本病態の原因は不明であったが,腹部理学的所見で汎発性腹膜炎の所見がなく,腹水は漿液性であったため,緊急開腹術を行える体制を整えて非手術的に行った。入院後の上部消化管造影および内視鏡にて十二指腸水平脚に潰瘍性病変を認めた。第20病日に同病変部より消化管出血を来したが,経カテーテル動脈塞栓術にて超選択的に止血できた。さらにその後,十二指腸水平脚全体に狭窄を生じたが経過観察にて徐々に改善し,第60病日軽快転院した。十二指腸水平脚の潰瘍・腸管気腫は非常に稀な病態である。多臓器不全を呈していても,汎発性腹膜炎の所見がなければ保存的治療で救命できる。
要旨浸水性肺水腫(Immersion Pulmonary Edema,以下IPE)とは潜水や水泳で急性発症する肺水腫であり,多くは速やかに改善するが死亡例の報告もある。IPEの発症機序は不明な点が多く,非心原性肺水腫であると報告されていたが,近年では一過性心筋障害が関与している可能性が報告されている。今回我々は,一過性の心筋トロポニン上昇と心臓壁運動低下を認め,心臓核医学検査で交感神経過亢進と考えられる所見を認めたIPE症例を経験したので報告する。【症例】52歳の女性。水温18°C,最大深度8.4m,平均深度5.5m,潜水時間20分のSCUBAダイビングを行った。潜水中にトラブルはなかったが,浮上後5分程度で呼吸困難が出現したため近医を受診し,減圧症の可能性が考えられ当院に転院搬送となった。来院時の胸部単純レントゲン及び胸部単純CTでは両側肺水腫を認めた。また心筋トロポニンの軽度上昇,心電図検査では非特異的STの変化,心臓超音波検査では軽度の瀰漫性壁運動低下を認めた。肺水腫に伴う低酸素血症の診断で人工呼吸器管理下に集中治療を行った。翌日,肺水腫と低酸素血症は著明に改善し呼吸器を離脱し,第11病日に合併症なく退院となった。入院中の検査では,冠動脈CTで有意狭窄はなく,第2,第3病日の心臓超音波検査は正常であった。また第9病日に行った心筋SPECT MIBGシンチグラフィでは明らかな心筋障害はなかったが,交感神経過亢進と考えられる所見があった。経過,検査結果より減圧症・動脈ガス塞栓・急性冠症候群などは否定的であった。来院時は心筋障害を示す検査結果であったが,症状軽快後の心臓核医学検査では心筋障害はないことから,本症例は交感神経過亢進に伴う一過性心筋障害が関与したIPEと考えた。ダイビングは運動負荷や冷水刺激等により交感神経が刺激されることからIPE発症機序の一つに交感神経過亢進による一過性心筋障害の可能性があると考える。