要旨 症例は54歳の女性,当院受診2日前より全身倦怠感を認め,インフルエンザAと診断され,バロキサビルマルボキシル,ツムラ麻黄湯,アセトアミノフェンを内服処方され経過をみていた。その後,自宅で動けなくなり救急搬送となり,非昏睡型急性肝不全,急性腎障害と診断した。与芝の劇症化予測式(Z=2.677)陽性のため,劇症化の可能性が高いと判断し,血漿交換,持続血液濾過透析を施行した。その後,肝逸脱酵素は急速に改善し,第28病日に退院した。飲酒歴はなく,各種ウイルスマーカー,自己免疫性肝炎の自己抗体は陰性であった。また,DDW–J–2004薬剤性肝障害ワークショップのスコアリングでは8点と薬物性肝障害を強く疑ったが,被疑薬と考えたバロキサビルマルボキシル,ツムラ麻黄湯,アセトアミノフェンのリンパ球刺激試験は陰性であった。急性肝不全の原因は不明だが,インフルエンザウイルス感染による急性肝不全の報告例は非常に稀であること,バロキサビルマルボキシルによる急性肝不全の副作用報告もないことから,貴重な症例と考え,今回報告した。
要旨 症例は29歳の男性。当院受診10日程前より左下顎の腫脹と疼痛を認めていた。発熱と吐血により近医に搬送され,精査加療のため当院に紹介となった。CTにて左下顎から縦隔にかけて膿瘍形成,両側胸腔内にも被包化された胸水貯留を認めた。降下性壊死性縦隔炎・両側膿胸と診断し,頸部アプローチによる経皮的縦隔ドレナージ・両側胸腔ドレナージを行い,集学的治療を開始した。第9病日に縦隔のドレーン排液が血性となりショックとなったため造影CTを施行したところ,左顔面動脈仮性動脈瘤破裂による造影剤の血管外漏出像を認めた。感染性顔面動脈仮性動脈瘤破裂と診断し緊急血管造影・コイル塞栓術にて止血を行った。動脈瘤破裂の影響で縦隔の膿瘍腔内に血腫を形成しドレナージ不良となったため,第18病日に胸腔鏡補助下縦隔ドレナージ術を施行し第21病日から27病日にかけてウロキナーゼの胸腔内投与を行った。第30病日に感染源と思われる左下顎齲歯の抜歯を行った。徐々に全身状態は改善し,第59病日に紹介元の病院に転院となった。降下性壊死性縦隔炎の症例は感染性動脈瘤の合併の有無について評価を十分行うべきであり,治療においては全身管理に加えて感染源の口腔内環境の制御も重要であると考えられた。
要旨直接経口抗凝固薬内服中に広範囲結腸粘膜下出血を生じ結腸亜全摘を要した症例を経験した。症例は81歳の女性で非弁膜症性心房細動に対しダビガトランを内服していた。臍周囲間歇痛と嘔吐で発症し,約5時間後にショックとなり搬送された。搬入時,PT–INRが4.52,APTTは測定不能と高度の凝固異常があったが,腎機能は正常であった。汎発性腹膜炎と診断し緊急開腹術を施行したが,凝固障害のため,結腸亜全摘術後の出血部にガーゼパッキングを行いopen abdomen managementとした。ダビガトランの作用が消失するまでの72時間にわたり凝固障害が持続し,出血制御に難渋した。ダビガトラン特異的中和剤であるイダルシズマブの認可前であったため,凝固異常に対し大量輸血で対処せざるを得なかった。72時間以降,凝固能は急速に改善し,第44病日に軽快転院となった。病理組織検査では,結腸のほぼ全域に粘膜下出血と,粘膜固有層から筋板下までの出血凝固壊死がみられた。経口抗凝固薬の消化器系合併症には消化管出血以外に壁内血腫の報告が散見される。その多くは限局性で保存治療によって軽快するが,本症例のように広範囲粘膜下出血より粘膜固有層・筋板下までの出血凝固壊死を生じて腸管切除を要した症例は極めてまれである。治療は凝固因子補充が主体だが,新たにイダルシズマブが認可されたため,今後はイダルシズマブが治療の第一選択となり得る。
要旨症例は21歳の男性,自殺目的に燃料用アルコール(メタノール76.6%含有)を飲用し,当院に救急搬送された。来院時,症状が軽微かつ検査値異常を認めないために緊急血液浄化療法の適応はないと判断し,fomepizoleの投与を行い入院となった。翌日,予測血中メタノール濃度が340mg/dLと異常高値であったが,その他の異常を認めなかったためにfomepizoleの投与のみを継続した。最終的に16日間,合計30回,本薬剤の投与を行い,合併症なく退院した。2015年1月よりアルコール脱水素酵素阻害薬であるfomepizoleのメタノール中毒・エチレングリコール中毒に対する使用が本邦でも保険適応となり,アルコール類中毒に対する標準的治療は大きく変化した。本薬剤のメタノール中毒への有効性は海外で広く認知されているが,従来用いられてきたエタノールによる解毒法と比較して医療費が非常に高額となり,その使用方法には依然として議論がある。今回我々は,fomepizole単独療法と血液浄化併用療法との比較を,患者管理の視点に加え,医療費の面からも検討した。その結果,個々の症例の血中メタノール濃度や患者状態,予測される治療期間に応じて2つの治療方法を使い分ける必要があり,血液浄化療法導入となる血中メタノール濃度の基準は50mg/dL程度であると考えられた。